第3話 魔力判定

 俺たち4人は朝食を済ませたあと、2の鐘が鳴る前には既に孤児院の隣に建つ教会の聖堂に集まっていた。

 ルナの町には、孤児院と並んで小さな教会が併設されている。


 俺たちはシスター長と共に、長椅子に並んで座り領主様を待っている。


 正面の奥の壁にはこの国の守護神が描かれていた。

 奇麗な女の人の神様で、なんでも安全と豊穣を司る神様なのだとか。


 そして俺たちの前には木造の机が用意され、その右側には神父様が皆に祈りをささげる時に経典を広げる祭壇が置かれている。


「もうそろそろ領主様が見えられる時間です。みなさん、領主様が聖堂にお入りになられたら立ち上がってお迎えし、神父様がいいというまで頭をさげておくのですよ」

「「「はい」」」


 ほかの3人も緊張しているようだ。


 それからしばらくして、神父様が両開きの門を片側だけ開いて入ってきた。その後からは領主様が入って来られたようだ。

 俺たちはシスター長に言われたとおりに立ち上がって頭を下げた。


 コツコツという足音が前の方で止まると、神父様が私たちに向かって話をされた。


「みんな頭をあげてよいぞ、皆で領主様にご挨拶をなさい」

「「「領主様、おはようございます」」」


「はい、おはよう! 元気がいいね。 私がこのルノザール地方の領主をしているシャール・フランソワ・ルノザールだ。毎年この時期にこの聖堂を訪れているのだが、みんなと顔を合わせるのは初めてだと思う」


 そう、去年まで領主様が魔力検査を行うために領主様が教会を訪れていたけれど、10歳になったものだけしか聖堂には入れない。だから、領主様の顔を見るのは初めてだ。


 初めて見る領主様は、意外と若い領主様だなと思った。


「今年は、10歳を迎えた者が4名だと聞いているが、ここにいる4名だね」

「はい、そうでございます」


 シスター長が答える。


「さて、みんなも聞いているとは思うが、10歳になると体の中に魔力を宿せる体質かどうかを判定するための、魔力検査を行うことが決められている」


 そう聞いている。


「そしてもし、この中に魔力を宿すことが出来る者がいた場合には、最低2年の間私がその子供を預かって、魔力の操作や魔術の訓練をする事になっているんだ」


「何故そのようなことが決まっているのか、私の方から説明をしましょう」


 俺たちは神父様に目を向けた。


「この国の魔術師の人数はとても少ない。魔物を倒すときに剣士の力は無くてはならないものですが、後方支援が行える魔術師の存在も重要で、とても貴重な存在なのです」


 この国には森や迷宮に魔物が出る。魔物は倒さないと人や家畜に危害が及ぶ。


「そこで、この孤児院で少しでも魔力を持つ者が見つかったら、魔術師としての素質を早くから磨くために領主様が支援をしてくださるのです」


 さらに、神父様は続ける。


「魔力量が多くなれば宮廷魔術師としての活躍も期待できるだろうし、できれば将来は、国のために力を発揮して欲しいという願いが……」


 ここで領主様が話に割って入られる。


「もちろん、将来魔術師として国のために働くことを強制するものではないんだ。2年間の指導を受けたうえで魔術師なんて嫌だと思ったら、自由に他の仕事を選べばいいし、そのための支援もすることになっている」


 魔力があっても、魔術師を強制するものではないという事だ。


「そしてもっと高みを望みたいというのであれば、王都にある魔道学院への入学も可能だし、領主として支援ができる」


(魔道学院に入ることが出来るのは、貴族だけだと聞いていたけれど、平民でも入ることが出来るのだろうか?)


「ともあれ、これらの話は魔力を体の中に宿すことが出来て、その魔力を操作できる素質を持っていることが条件なのだ」


 魔力があれば、正しく練習することで魔力を操作できるようになるという。魔法を使うためには、魔力操作が出来なければ使えないと聞いた事がある。


「これからこの魔力検定版で検査を行いたいと思う。これは手を当てるだけで、魔力を持つ素質があるかどうかが分かる魔道具なんだ。では早速やってみようか」


 俺たちは領主様の問いかけに無言で頷いた。


「では、最初はジェームス君からだ、こちらに来なさい。この台の上に置かれている検出版には表面に手の形が描かれていますが、その上に君の手を当てるのです」


 神父様がやり方を教えてくれるので、ジムは言われた通りに手を当ててみるが……何も起こらない。


「そのまま10数えなさい。稀に反応に時間がかかる場合がありますからね」


 結局、何も変化がないので次は俺の番となる。


「では、次はアルフレッド君、同じように手を当てるのです」


 俺も同じように手を当てて10数えてみるが、ひんやりとした感触しか感じない。


「うーむ、ダメなようだ、次はエミリー君 こちらへ」


 俺はそのまま後ろに下がり、エミリーと入れ替わった。

 エミリーも俺たちと同じように、右手を出して検出版に手を乗せた。


「あっ」

「おおっ!」


 検出版の表面が直ぐに、薄っすらと光り出したのだ。


「君はエミリー君といったねっ、君は間違いなく魔力の持ち主のようだ! 私が領主となって以来、初めての魔力持ちの子がこの孤児院から出たよ!」


 領主様は興奮されているのか、エミリーの手を両手で握り締めてとても嬉しそうだ。


「君は今後、私の領主館で魔力の操作方法を学んだり、魔法を正しく発現させるための訓練をしてゆくことになるが、どうか安心してほしい。無理はさせず、何事も君のペースで行っていくからね」


「あのっ…… 領主様、もう一人いるのですが」

「あっ、そうだったね。失敬、失敬」


(エミー、やっぱりそうだったね。俺がケガをしたときの、いつもの手当。やっぱりあれは魔力が影響していたんだ)


 当の本人は驚いている訳でもなく、神妙な面持ちだ。自分でも薄々気付いていたのだろう。


「最後はミラベル君、こちらに来なさい。そして皆と同じように、右手を当てるのです」


 ミラがトコトコと歩いて行き、無表情のまま徐に手を当てる。何と! エミーの時と同じように検出版が光った。


「何という事だ! いや……もしやエミリー君の魔力の影響がまだ残っていたのでは?」


「そんなことは無いはずだ。この検出版はこれまで毎年たくさんの子供たちを検査してきたものだ。これまでにそのような例は無いし、手を離した時点で魔力の影響は消えるのだ」


「…‥そうすると、ミラベル君も!」

「ああ、今回は孤児院から魔力を持った子供が二人も見つかったことになる。ああ、これはとても喜ばしいことだよ!」


 ミラは驚いているエミーの方を振り返り、『よかったね』と言わんばかりに微笑んでいる。

 ミラも自分に魔力があったという事を驚いている様子はない。ああそうか、もしかしてミラは全部分かっていたのか!


 4人の魔力検査が終了したら、エミーとミラの二人は聖堂に残るように言われ、俺とジムは二人で孤児院に戻ることになった。

 シスター長も一緒に聖堂に残り、領主様からこれからの事について説明を受けるのだという。



「しっかしさあー、ふたりとも魔力持ちだったなんて信じらんねぇよ。俺たち何だか取り残されたって感じだよなー」


 両手を頭の後ろで組んだジムがそんなことを言いながら、つまらなさそうに教室へ続く廊下を歩いている。

 その横で俺もさっきの事で何となくだが、仲の良かった4人の間を少しだけ引き離されたような気持になるのだった。


 そしてエミーとミラは、3日後に領主館に行くことが決まった。

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