満身創痍
――「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
色とりどり、光の舞う空間。そこで武器を構える僕達を4匹の成人ほどの大きさのトカゲが取り囲む。
頭上から迫る影。
「上よ!」
「走れ!」
合図と共に蹴り出す。
ズクズクと痛む全身に命令をし、飛び上がる。
ムチの様にしなり、僕らの体を叩き割らんと迫る尻尾を躱す。
そのままの勢いでトカゲの喉笛から脳天にかけて刃を突き刺し、腕を振り抜いた。
ドサリと何か重たいものが落ちるような音を背後に次の相手へと走る。
ラヴィへと群がり息もつかせぬ勢いで攻撃を仕掛ける三匹のトカゲ。
彼女はその畳み掛けるような攻撃を捌き続ける。
――受け止め、その力を流しつつ攻撃圏内から離脱。迫る追撃を紙一重で躱し、反撃の一撃を突き立てる。
そんな中で攻めあぐねた一匹の離脱行動。その先に刃を押し込み、かっさばく。
体を引き裂きえぐり取るその痛みに悶え、その命はあえなく事切れた。
次は――
振り返ると、エリックが彼の頭上へと飛びかかるその大型爬虫類を槍で貫き、薙いでいた。
終わった。今度こそ。
「離れるぞ!」
鉄のような嫌な匂いが立ち込めるそこには山のような死骸が転がっていた。
少しでも安全な場所を求め、そんな地獄のような空間を離れていく――
――「気を抜くな!次が来る可能性はまだ残ってる!」
皆が見解なのは自明だった。自分さえそうであることも分かっていた。
それでも何かに追われたように、何かを恐れるように彼は叫ぶ。
「もう良いわ、エリック。次の気配はないわ」
マリアのその言葉で僕達はへたり込んだ。
どうやらエリック警戒を弱めたようで膝をつき、荒れる息を整えていた。
「死ぬかと思った」
「でも全員生きてる」
もう僕達の見た目はボロボロだった。全身の傷は再び悲鳴を上げ僅かな握力さえも今は残っていない。
落としたナイフには真っ赤なドロドロの流体がまとわりついていた。
少しでも早く動き出すためにと体を起こすと
「警戒は私がしておくから今はできる限り休みましょう。匂いが染み付いたこの服ではいつ新手が来るか分からないわ」
マリアが僕達にそう言ってくれた。だが彼女は殆ど休んでいない。
「マリアこそ休んで」
ラヴィの言葉に僕も同意だった。
「そうだね。だってずっとまともな休憩とってないでしょ?」
「でも――」
「マリア。お前が居なければ全員死ぬんだ。良いから休め」
全員に押し切られる形で座り込んだマリアは気を失うように眠ってしまった。
やはりかなりの無理をしていただけだったようだ。
「二人共助かった。俺だけだとどうしても言う事を聞いてくれなかったんだ」
「僕らの行動指針の要になっちゃってるからどうしても責任みたいなものを感じちゃってたのかな」
そうだろう。と同意するエリックとラヴィ。
マリアの回復を待つ間、僕らは配られた地図を広げ、この場所がどこなのかのあてをつけていく。
もちろん一層であったようにこの地図を信用することはできない。それでもやる価値はあると思う。
「あの巨大な桜みたいななにかの位置は信用してもいいと思う」
「とりあえず、それを目印にするか」
分かったことは以下の通りだった。
地図によるとこの場所は三層入口のすぐ近くにあたる場所であること。
二層入口にもあった巨大な桜のような物を基準にして考えるとこの場所は大きく構造が変わっている可能性があるということ。
つまり僕らは半ば手探りで最終地点までいかなければならないだろうということ。
先を憂う僕達に新たな来客が訪れる
聞こえてくる話し声、近づく足音。
何かが近づいてくる。
また敵襲か。
目配せの後、ラヴィが気を失っているマリアと共に体を隠そうと動いた。
すぐさまエリックとともに二人で臨戦状態へと移行し武器を構える。
張り詰めた空気の中その音の主が姿を表した。
顔を出したのは金髪の大柄な青年と赤栗色の髪の同様に背の高い青年だった。どちらも小さな傷を無数に追っており、道中でもよく見た服――僕らが着ているものと同じもの――を着ていた。
金髪の方が僕らの様子を見るなり両手を挙げて口を開く。
「おっと。俺達は敵じゃないよ。君達と同じ立場の人間だから警戒を解いてもらえないだろうか」
暫しのにらみ合い。その間彼らは一切の攻撃する素振りを見せなかった。
完全に信用するわけには行かないがそれでも一旦の協力には値するだろう。
「分かったよ。一旦は信用することにする」
「感謝する。この様子だと、君達の仲間は隠れてるだろう。そこに広がっている地図を見るに大方、休息中で現在地の確認をしていたってところだろう」
「何のつもりだ?」
僕の言葉に帰ってきた返事にエリックが威嚇をするように鋭く、刺すように睨む。
何かあれば即彼らの体に大きな穴が穿たれるだろう。
「こいつが余計なことを言ってすまないな。もう一度いうが俺達は敵じゃない。むしろこの先すぐにある三層入口まで案内をしに来たんだ」
よもや一触即発と行った空気を解くように赤栗色の髪の男が割って入る。
「この人たちに案内をしてもらっても良いんじゃないかな」
再び訪れた沈黙をかき消したのは僕の声だった。
正直、僕だって怖い。純粋に信じることなんてできない。
どうしても受け入れられないというようにエリックが否を唱える。
「リスクも否めないんだぞ」
「そうだとしても僕らは限界なんだよ。だったらこのまま下手に手探りのほうが危ないだろ。それに最悪彼らと殺しうことになってもそれはここの生物と遭遇したのと変わらないだろ?」
そう。そうなんだ。今の僕達はこれ以上の障害に立ち向かうだけの力なんて残っていないんだ。
エリックは苦虫を噛み潰したように、悔しさを噛み殺すような表情を浮かべた。
目を瞑り、息を吐く。
「分かった、そうしよう。二人共よろしく頼む」
そう言いエリックは手を差し出した。
赤栗色の髪の青年がその手をとる。
「良かったよ。俺はライル。こいつはアレックスだ」
「アレックスだ。よろしく」
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