篝火を囲んで
淡い光がぼんやりと私の目に飛び込んできた。
そのうちのいくつかはまるで妖精や闇夜に輝く蛍のように私の目の前を漂い、通り過ぎていった。
ぼやけた視界が次第に形を帯びていく。
薄っすらとしたはっきりしない意識がだんだんと浮上してきた。
そこにない私の体がだんだんと形を得ていくように。
私の体はまず全身を襲う鈍い痛みに悲鳴を上げた。
そして左腕では突き刺さる鋭い痛みが暴れている。
ああ、私ってまだ生きてるんだ。
ノイアを助けるために蹴り出したところまでは記憶が残ってる。
そうだ、ノイアは――
痛みに遠のいていた意識はそこで一気に覚醒に近づく。
「ノイアは!?ノイアは生きてる?」
「大丈夫だラヴィ・ミラ。安心しろ、ノイア・ウィルは生きてる」
思い出すと同時に溢れた言葉には誰かの答えが帰ってきた。
その言葉に安堵を覚え、私の意識は深く深く沈んでいった。
あったかい。何かに包まれているような感じがする。
何だかきもちいい。
私の目に漂う光が飛び込んできた。さっきとは違いその光はくっきりと周りの様子を写し出す。
私達を守るように傘を開いているキノコの下で意識がはっきりとしていく。
「ゔぁ」
体を起こすと全身が鈍い痛みを訴え思わずうずくまってしまう。
左腕からはドクドクともはや痛みなのかすらよくわからない感覚が送られてきていた。
だが、幸いなことにそれでも明らかに先ほど意識があった時よりも痛みが引いていた。
傘の下から出て全体を見渡す。
頭上に広がるのは夜空に輝く星星のような光。
この場所の姿は私が知っている先程までの光景からはほど通く、まるで光のない夜のようなものだった。
――「ラヴィはさ、なんだろうね僕の唯一の家族みたいなものなんだ」
不意に声が聞こえてくる。
ラヴィの声だ。
マリアと篝火を囲んで話している様子だった。
「僕もいつからなのか分からないんだけどね。それでも兄弟のように家族のように思ってる」
「そう。あなたたちも似たようなものなのね」――
篝火を囲む二人を陰からこっそり見ていると「なるほど……さて!」とマリアが意味ありげに話を切る。
「ねぇノイア。今の話、大事な大事な家族に聞かれてたわよ?」
「え――」
してやったり顔のマリアが心底楽しそうに振り返り、こっちを指す。ばっとこちらを見たノイアの顔は、ゆでダコのように きゅ~ と真っ赤に染まっていく。
「わーー今のなしなし!聞かなかったことにして!」
「ありがとう。ノイア」
「……うん。……寝る」
いつも通り元気で無事そうな様子を見て得た安堵とともに手渡した言葉は逃げ場の無い彼に効いたらしく、少しだけ目を逸らしてそそくさと近くの陰に隠れてしまった。
「ねぇ、ラヴィちゃん。少しだけ私とお話してくれない?」
「良いけど。なに?」
「もう、返事が可愛くないわね。ただ貴方のことを知りたいだけよ」
そう言って彼女は私を手招きした。
彼女の招きに応じ、座る。
何なんだろう、知りたいことって。私達はこれが終われば他人だろうに。
「それで、聞きたいことって何?」
「ラヴィちゃんにとってノイアってどんな存在なの?」
「それを知ってどうするの」
「別に私がノイアに好意を抱いただなんてそんな話じゃないわよ」
何故か念を押すように補足を入れてくる。
そして彼女は「だって私は……」と彼女は何かをつぶやき、慌てたように
「そんなことは良いから教えなさいよ」
と。
自分で広げた話なのに。
まあでも、別に隠すようなことでも無いので私が思っていることくらいだったら教えてあげよう。
「質問の答えね。私にとってのノイアは……」
うまく言葉が出ない。
「……私の家族で、私に好奇心を与えてくれた人。私に勇気をくれた人。私に目的をくれた人――
ごめん。うまく言えない。でも何よりも大切だってことは言えると思う」
「そうなのね」
考えるうちに思わず口に出た言葉をマリアはとっても楽しそうな表情でほほえみ、時折暗闇の方を見ながら聞いていた。
「ありがとう。私ばかりが聞くだけだと公平じゃないわ。次は私の話をするわね。というか聞いてほしいだけなのだけれどいいかしら?」
「うん」
首を縦にふると彼女の口からはエリックのことが溢れ、彼女の彼に対する信頼がうかがえる。
あのときは――
このときは――
それでそのとき様子がね――
エリックの話をしながらころころと変わっていく彼女の表情はこの場のどんなものよりも彩り鮮やかで輝いたのかもしれない。
なにか一つ良いものを拾ったような気分。
そうして暗く染まり、この場所の全てが活動を止めていたような時間が明けていった。
ここは二層。菌類に覆われた床面や壁面。そしてその至るところから結晶が顔を出している。
ただ、一層とは明確に異なる物が。それはこの空間のあらゆる場所で誘うように舞う妖精のような光だった。
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