第65話 社畜は秘め事にほくそ笑む

「最期に言いたいことは有りますか?」


 身動きも取れずに戦々恐々としているヒクイドリに僕が最終通牒ファイナルアンサーの確認をすると、ヒクイドリが返事するよりも早く絃紫いとしのさんが口を挟んできます。


師匠旦那さま♡、ちょっと待って貰えますか?」


 ・・・師匠の言葉になんか変なルビを振っていません?


 まぁとにかく、一応言い分は聞きましょう。


「ヒクイドリさん、アナタ誰に外のこと聞いたの?」

〖・・・〗


 当然のようにヒクイドリは顔を背けて証言を拒否します。


 それにしても絃紫さんたら、単刀直入に聞きすぎですってば。


 いいですか?こういう事は、段取りを追ってやらないと解ける謎もこんがらがるのが世の常なんですからね?


 仕方ありません、順番がめちゃくちゃになってしまいましたけど、僕が後を引き受けるしかないじゃありませんか。


「言いたくないのは分かりますけど事ここに至っては腹を決めてほしいものですね。 

 ウチのサブリーダー絃紫さんも違和感を覚えていたんでしょうね。

 だってそうでしょう?

 ちょろちょろとダンジョンの外から僕たちのような探索者が上層に入って来ているから外の世界がある筈だ、そう貴女自身が考えていたのでしたら哲学的に聡明な方だと申さざるを得ませんが先程からあなたの様子を拝見していると直情的な行動ばかりが目に付いて思索的な性格ではないと推察させていただきました。

 つまりはあなたには、外を認知出来るほどの知性は感じられないという事にほかなりません。

 そこで僕が考えたのは貴女をそそのかす、言葉を換えれば貴女に入れ知恵してまで外の世界に目を向けさせて迷宮氾濫オーバーフローを誘発させようとしているのは誰なのか?という事です」

〖お~ば~なんとかをゆ~はつ?

 他のやつらはかんけ~ないよ!あたいが外に出たいだけなんだよ!〗


 やっぱりその程度の認識だった訳ですね。


「ダンジョンとは下が動けば上も押し出されて行くようになっているそうですよ。

 これは先ほどダンジョンマスターダンジョンちゃんに確認を取りましたから間違いはない事のようですけどね。

 狛犬の獅子が18階層を抜け出して2階層の僕のところまでやってきたのは例外中の例外で、でもその為に代償として彼はすべての権利と能力を失ったらしいですけどね。

 (何と言っても僕に吹き飛ばされて半身不随になってるくらいですから)

 それでもその影響として一ランク上の丙級5階層のボスを呼び込んでしまうという結果になってしまいましたけどね。

 18階層の狛犬の中のたった一匹でもそれだけの影響があるんですよ?

 当然、最下層のダンジョンボスがもし外に出るとなるとダンジョン内のモンスターは一匹残らず外に出ないと帳尻が合わなってしまうそうですよ。

 なんでも一匹でも途中に残っていたら、魔素の関係でそこに引っかかって先に進めなくなるらしいですからね。

 そうなったらダンジョン自体がその階層を中心に崩壊を始めてしまうそうですから」

〖そんなこと聞いてないよ・・・〗

「師匠、ダンジョンちゃんにそんな事まで聞いてたなんて知りませんでしたけど?」

「説明する前にここに放り込まれちゃいましたからね」


 僕に噛み付くくらいなら外で大人しく待っててくれればよかったんですけどね。


「そしてそこまでして外に出たとしても貴女の同類と巡り合う事はほぼ無いんですよ」

〖そんな事無いもん!

 他のダンジョンにあたいのだ~りんがきっといるはずだもん!〗

「誰からそんな話を聞いたのかは知りませんがこの狭い日本にすら火属性丁級ダンジョンはあと一つしか無いんですよ。それも北海道の旭山動物園ダンジョン、遠すぎて魔素がほとんどない外の環境の中で貴女がそこまで辿たどり着ける可能性は残念ながらゼロですね」


 あっちは火口型でサラマンダー系がほとんどですからヒクイドリがダンジョンボスであるかどうかも分かりませんからね。豆腐小僧なんて他のダンジョンにはどこにもいないんですから推して知るべしという事ですよ。


 それに出て行くのに他のモンスターを全部押し出していかないと出て行けないってのに他のダンジョンにどうやって入って行こうと言うのかが疑問なんですけどね。


【おつきゅうの阿蘇ダンジョンの5かいそうのボスはたしかヒクイドリだったとおもうよ?

 きっとどーぶつえんダンジョンよりちかいけど?】


 ダンジョンちゃんめ、余計な豆知識を・・・でも阿蘇までだって魔素無しじゃとても着けないでしょ?


 今の話は僕とダンジョンちゃんの間での会話だったらしくてヒクイドリも絃紫さんも無反応ですね・・・秘密の漏洩だけは気を付けなければなりませんよね。


 どうせ腹芸とかできる筈も無いダンジョンちゃんにはヤバい話は振らない事、それが傷口を大きくしない第一歩ですからね。


「ダンジョンを出ると魔素がほとんど無くてモンスターたちは激しく弱体化する事が確認されているんですが、それでも外に出たいんですね?」

〖え?そんな、そんなこと教えて貰ってなかったんだもん!

 知ってたら無理に外に出るなんて言わなかったよ!〗


 知るは一時の恥、知らぬは一生の恥って言うでしょ?よかったね、知る事が出来て。


 その時、ブーンと言う音と共にヒクイドリの身体を炎が覆いました。


 時間を掛け過ぎたようですね、オレンジ色の炎が揺らめくヒクイドリは愉快気に尾羽を拡げて見せます。


〖これでけ~せ~逆転だね!

 炎が戻ればアンタみたいなおっさんにあたいをど~こ~できる訳無いもんね!〗


 試してみますか?


 僕は拳を固めてヒクイドリに殴りかかりました。

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