第59話 社畜は故事を解明する

 蒸し蒸しとする赤っぽい岩だらけの景色、既に18階層まで来ています。


 階層が下って行くに従って徐々に周りの景色は、赤みを帯び温度は高くなっていきます。


 潜り始めて既に半月が経ちました。


 L〇NEで連絡を入れているとはいえ、入社したての会社に果たして籍は残っているのでしょうか。


 森野首相の件にしたって一方的に情報を送り込んで見切り発車でアタックを始めたんです。


 どこまで話が通じているのか不安でしかありません。


 幸い僕たちの力は、この階層までのモンスターには通用していますのであと少しの間この状況が続いてくれれば20階層のヒクイドリに一撃加えて有終の美を飾る事が出来るのではないでしょうか。


 ちなみに僕のレベルは30に届きました。ここに潜る前に見た時は23でしたのでかれこれ7つ上がった事になります。


 お目汚しに今の僕のステータスはと言いますと、


『雅楽太智  54歳 ポーター

  称号 初めての探索者、始原の覇者、未知なるものに愛でられし者、強者を従えし者

  別名 ソクワスレ 骸骨おやじ 


 レベル 30

      

 体力 147

 魔力  89

 

 筋力 118

 知力 119

 敏捷  90

 防御  61

 運   31


 スキル 視力強化lv.6 テイムlv.4 マッピングlv.4 応援lv.2 アイテムボックスlv.4 風魔法lv.3 重力魔法lv.3 火魔法lv.1 料理lv.6 掃除lv.6 工作lv.4 説得lv.5 呪い耐性lv.8 投擲術lv.4 徒手空拳lv.4

 職業   ポーター 魔法使い《風》 テイマー 魔法使い《重力》 魔法使い《火》 投擲手

 加護   ダンジョンの管理者

 従魔   グリフォン1』


 いつの間にやらテイマーも職業になってましたね。


 物を投げてそれに重力魔法を掛けて相手にダメージを与えるってのをよくやっていたせいか投擲術のレベルが上がってるのが何ともしょぼいと言うか、それといつの間にやら生えた『徒手空拳』なるスキルですが未だによくわかっていません。


 ついに運が30を越えました。10が常人の数値だという事で運が常人の3倍になったという事、筋力知力に至ってはおよそ12倍・・・今にスーパーコンピューターとタメを張れるようになるんじゃないかと不安になってしまいます。


 まぁ生きて外に出られたらの話でしょうけど。


 見た目はかなり貧弱なんですけど実は・・・って感じですね。この数値だけを見ていると狛犬の獅子を張り飛ばして大破させたのは実力の様な気がしてきますね。


 ちなみにこの18階層は狛犬と獅子に狛鼠、稲荷狐、狛虎、狛猪と神社に喧嘩を売っているかのようなラインナップで罰当たり道まっしぐらな僕たちです。


 おっと、僕だけステータスを晒しても納得できない向きはあるかと思います。


 やはり絃紫いとしのさんも晒してしまいましょう。


「え?嫌ですよぉ、乙女の秘密って知らないんですか?」


 戦乙女の秘密なんて大方ロケットパンチの本数とかビームサーベルの長さとかじゃないんですか?


「あたしは生身の乙女なんですけど」


 うわぁ、ご褒美の威圧を頂きました。もう慣れちゃいまして僕には効果がほとんどないんですけどね。


『絃紫恵梨華  22歳 ランサー

  称号 槍の達人

  別名 氷結の戦乙女


 レベル 27

      

 体力 100

 魔力  63 


 筋力 162

 知力  65

 敏捷  91

 防御  88

 運   14


 スキル  槍術lv.8 氷魔法lv.3 勇猛果敢lv.5 威圧lv.3

  職業  槍士lv.10 魔法使い《氷》

  加護  なし

  従魔  なし』


 ポーターらしい器用貧乏の僕のに比べたらすっきりしたステータスですよね。


 それにちゃんと威圧がスキルになっているんですよね。


 見て分かる通り絃紫さんは称号持ちです。


 実はあの時、絃紫さんがステータスの更新の件を知っていたのは、ダンジョンちゃんが称号持ちにだけ情報を流していたからなんです。


 それを神託とか妙な表現をするから・・・


「じゃあどういえばよかったんですか、師匠雅楽さん?」

「うーん・・・どう言っても信じて貰えないですよね」

「じゃあ神託で正解じゃないですか♬」


 男ってのはどんな時だって女には口で負けるものなんです。筋力でも大幅に負けていますけどね。


 おっと、敵さんがいらっしゃいましたよ。


「来ましたね・・・狛兎・・・ですか?」

「ピョンピョン跳ねられると狙い辛いんですよね」

〖・・・〗


 すっかり話す事が無くなってきた狛犬の獅子は、僕たちの事をどう思っているんでしょうね。


 まぁここまでは素直に送り届けて来てくれましたからこちらとしては文句なんてありませんが。


 そんな事より敵さんは3匹、近づかれると面倒なのでアウトレンジで勝負と行きましょうか。


 さて、戦闘開始は僕がその辺で拾った石っころを投げた後から重力魔法を掛けるいつもの奴で。


 “重くなれ!”


 レベル4ともなると50メートル近い距離があってもきっちり命中してくれますから弓とか習わなくても僕には十分ですね。こぶし大の石が砲丸に化けるんですから。


 今回もきっちり頭を破壊して一匹昇天です。コストパフォーマンス抜群でしょ?


 狛シリーズは、石像とは言え西洋風のゴーレムと違って頭を破壊してしまえば終わりですから、やれ核を探せだとか刻まれた文字をとかそういう手順がいらないので勝負が早いんです。


 僕の肩書に投擲手なんてものが生えたのもこのおかげでしょうね。


 一方、絃紫さんは連中の接近を阻むために氷の壁アイスウォールを作るようです。


 “壁よでよ”


 氷の壁は一瞬にして広がり、突進してくる狛兎の鼻っ面にそびえ立ちます。


 かわす事も出来ずに壁に激突する狛兎たち。


 衝撃で一匹は大破しもう一匹もどこか壊れたのでしょう、ぎこちない動きで壁から離れようとしています。


〖ピュリリリリ!〗


 そこに、朧丸が竜巻を巻き起こしその場の二匹を巻き上げます。兎とは言え、結構な重量がある筈の石像を巻き上げるのですから相当強力な魔法ですね。


 そして、そこには魔石とドロップ品が残されていました。


 魔石2個は諦めましょう。トドメを刺したのは朧丸に間違いなんですから・・・こいつはそういうズルをする事には機転が利くと言うか、まぁしょうがない娘ですよね┐(´д`)┌ヤレヤレ。


 まぁここでの戦いはこんな流れで推移しています。


 狛猪には突進力に氷の壁が負けて突っ込まれ、僕がうっちゃって命拾いをしたとか、狛虎には投擲も効かず朧丸が格闘戦に持ち込んで手負いになったところで僕がビンタをぶちかまし首を吹っ飛ばしたなんて事もありましたね(この時も先に手を出したのは自分だからと朧丸にさっさと魔石を持っていかれまして大損こいていますが)。


「なんかあたしってあんまり役に立ってませんよね」

「何言ってるんですか、アイスウォールで突進が止まる安心感があって初めて成り立つ僕たちの戦闘スタイルじゃないですか」

「それはそうですけど・・・」


 おやおや?絃紫さんは何かご不満なご様子ですねぇ。


「つらつら考えてたんですけど・・・なんか変だと思いません?

 妙に接待モードって言うかイージーモードが過ぎるって言うか」

「たしかに朧丸を含めてもこっちの攻撃手段は風と氷の一辺倒ですが、手傷を負わされそうな強敵とはまだ遭遇すらしていないですしね。

 これまで土属性の暫定丁級5階層までしか潜っていなかった三人パーティーがいきなりルーティンワークで18階層を戦えている事に違和感がないとは言えませんね」


 言われて見れば相性がいいのはともかくとしても、未知の世界である筈の18階層を平気な顔して無双している僕たちは異常ですよね。


「これまで10階層を突破した勢いで下に向かった人たちだってたくさんいた訳じゃないですか。

 それが未だに一人も帰っていないって事をどう考えられますか?」

「一つの可能性として考えられるのは下から上に戻る道が無いって事でしょうかね。

 そうでなければ定説通り全滅して戻る事が無かったか、竜宮城でもあったのか。

 もし、僕たち程度でここまで無難に来れるという事がダンジョンちゃんの接待プレイでないとするなら僕たちが安全マージンを取り過ぎるくらい取っていたとかダンジョン本庁の想定以上にモンスターの強さが凄くなかったという可能性も・・・ただそれではなぜ今まで10階層を突破した者が帰ってこなかったのか、その理由が解らないですよね」


 こんな深い所に来て今更な事のようですが僕たちには必要な確認事項なのですよ。

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