第57話 社畜は大仕事に挑む

 朧丸おぼろまるが得意げにくわえてきたのは、見た事のある様な無い様なそんな白い石の塊でした。


〖ご慈悲を・・・せめて介錯をお願いつかまつるぅぅ・・・〗


 それはさっき平手をぶちかましたというか偶然手にあたってきたというかそんな感じの偶然の結果でどこかに弾き飛ばされていた狛犬ではなく獅子のなれの果てでした。


「今なんか声が聞こえたような?」

「はい、ですからさっきから説明に出てきた狛犬、ではなく獅子の残骸がこれですね。

 朧丸、よくこれを見つけてきましたね、よく出来ました」

〖ピーッ!〗


 得意げに胸を張る朧丸、これで魔石の摘み食いさえ止めてくれたら自慢の娘って吹聴して回れるんですけどね。


「白い獣型の石製のゴーレム、ですよね。

 とてもライオンには見えませんけど本当に獅子なんですか?」


 自称弟子は僕を疑うという訳ですね?


「貴女は初詣に神社とか行った事はありませんか?

 そうですか、それでは見た事がある筈ですよ。

 鳥居の前とかに2体一対で設置してある石像を見た事がありませんか?

 そうです、その狛犬です」


 そこで思う存分に狛犬に関する蘊蓄うんちく自称弟子絃紫さんに垂れ流しますと、絃紫さんは引きながらも感心するという器用な真似をしてくれましてようやく納得して貰えたようでした。


「オスの狛犬が獅子なんですね・・・紛らわしいなぁ。

 でもそんなのに襲われてよく無事でいられましたね、さすがは師匠雅楽さんです!」


 そ、そんな♡、褒めても何もあげられませんよ♡!


クーちゃん朧丸がせっかく見つけてくれたんです、トドメを刺してレベル上げをなさいますか?」

「僕に一発で吹っ飛ばされるようなののトドメを刺したところで大した経験値にはならないんじゃないですか?

 それより僕にもちょいとばかりの考えがあるんですよ」


 僕の足元にはほぼ砕け散る寸前の様なボロボロの石の塊もとい雄の狛犬の獅子が転がっています。


 言わずもがなですが朧丸が拾ってきてくれたものですね。


 僕の平手たった一発でこうなるなんてとても信じられないんですけど余程当たり所が悪かったのでしょうか。でなければ常人の2倍の幸運値が仕事をしてくれたのでしょうか。宝くじの時はサボっているくせにですね。


 どちらにしてもやる事は一つです。


「オスの狛犬の獅子さん、貴方の望み通りにヒクイドリさんの横っ面に一発ぶちかましに行きましょうかね。

 貴方の案内があったらすんなり20階層まで行けるのかも知れませんし、迷宮氾濫オーバーフローを回避するには有効な手段なのかも知れませんからやってみる価値はあるのでしょう」

「師匠!あたしとの愛の逃避行の方がロマンがあると思うんですけど」

「あなたのご両親に取り殺されたくはないですからそういう戯言たわごとは寝てから言ってくださいね。

 それに迷宮氾濫オーバーフローの兆候を掴んでいて放置したなんてあの世の僕の両親にバレでもしようものなら地獄に突き墜とされちゃいますよ。

 一番被害が少なくて効果があるとするならボス討伐しかないという事はみんな解っているんです。

 このダンジョンの近辺で一番強いのは絃紫さんと朧丸じゃないですか、無理でもここは賭けるべきだと思ってます。(鬼百合リリーさんの実力は知りませんし妊婦さんですからパスという事で)

 でも絃紫さんは無理しなくてもいいんですよ。

 先の短い年寄りの特権で行くんですからね。

 さぁ、そうと決まったら準備の為にダンジョンを出る事にしましょう」

「・・・師匠はズルいです。

 そんな事言われて逃げ出す臆病者でも小ズルく立ち回る卑怯者でもあたしはありませんから。

 地獄の底までお供します。最愛の妻の特権ですから」


 空気をほぐそうと無理なジョークを挟むのは勘弁して欲しいんですけどここは敢えて突っ込みますまい。


 最愛の弟子に敬意を表して。


〖拙者の意思は考慮しては貰えないので御座るか?〗

「ヒクイドリのエサぐらいにしか僕の事を思ってなかったくせに今更どうこう意見できるとか思い上がりが過ぎませんか?」

〖・・・〗


 思わずほとばしる僕の殺気に怯えたのでしょうか、狛犬みたいなものは返事が出来なくなったようですね。


 でも僕が出ると言ってもダンジョンの1階層の出口脇までしか行きません。


 テイムしている訳では無い狛犬モドキを連れて外に出るなんて、何が起きるか解ったものじゃありませんからね。


 もし、これが呼び水になって本当に迷宮氾濫オーバーフローが発生でもしようものならご近所の皆様にはらさばいてお詫びをしなければなりませんからね。用心に越した事は無いんです。


 絃紫さんには手間を掛けさせてしまいますが、収納箱アイテムボックスに溜め込んだドロップ品の数々を現金化して貰うのです。


 レベルが足りているか判らない状態でのダンジョンアタックをする訳ですから食料やら武装やら薬やらの補給を出来るだけしておきたいので少しでも足しになるようにという訳です。


 金の延べ棒が2本ありますし呪いは全部ゴミに移してますからいい値が付く筈ですが・・・


 何を買ってくるかは絃紫さんの裁量に任せていますし、さいわいアイテムボックスの中は時間が停止、もしくは非常に経過が遅いようなので腐りそうな物でも平気だと伝えてありますからケーキとかお菓子の山がきっと来る事でしょうね。


 ついでと言っては何ですが入社間もない会社に休みの申請もしておいて貰いましょう・・・生きて戻ってこれたとして籍が残っているかは不安ですが。


 ついでの自棄ヤケで森野首相宛に迷宮氾濫オーバーフローの抑止の為にダンジョンアタックをする旨、伝えておいて貰いましょう。


 言い訳程度にはなるかも知れませんからね。


師匠雅楽さん、オーバーフローの抑止って言っても証明できるものが無いんじゃありませんか?」


 うーむ、さすがは我が弟子乙級探索者、それに気付いちゃいましたか。


「モンスターが話せるとか余計な情報を公開すると人権派とか言う面倒くさい人たちがコバエのように集まってきますからそれはNGでしょ?

 かといってダンジョンちゃんから聞いたとかってすると、おつむの状態を心配されますしね。【むじつだよ~ヽ(`Д´)ノプンプン】

 丁種2階層に丙種5階層のボスが発生してそれを退治したってところからこれは何かが始まっているに違いない。だとすれば迷宮氾濫じゃなかろうか、みたいな話でどうでしょう?」

「演技力には問題しかないんですけどそんな事言ってられませんよね。

 その線で押していきましょうか」


 冴えない骸骨みたいなおっさんの言う事より若くて綺麗なお嬢さんの言う事の方を信じるのが男のさがというものです、一も二も無くみんなが信じてくれますよ。


「リリーさんって信用できる人ですか?」

旦那自称勇者が絡まなかったら優秀って言っても構わないんじゃないですか?」

「その旦那は今どこに?」

「北海道か沖縄のダンジョンに妊娠してない嫁さんたち引き連れて潜りに行ってるらしいですよ」


 ・・・何人はべらせているんですかね自称勇者さんは( ゚д゚)。


「だったらリリーさんを頼っても大丈夫でしょうか?」

「あたしは最初から頼る気だったんで大船を漕いだ積りでいいんじゃないでしょうか?」


 ・・・大船は漕ぐんじゃなくて乗るんですよ。


―――――――――――――――――――――――――ー

 絶賛自転車操業中でございます。


 何とか間に合ったのでセーフという事で・・・いいですよね?

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