第53話 社畜は曲事を諭す

 2階層の中ほどにやってきました。


〖ピュリリリリ♡〗


 現在、朧丸が鎌鼬ウィンドカッターを使って辺り一面の豆腐小僧の大軍を掃討中・・・虐殺と言った方が正しいのかも知れません。


 僕はと言うと壁際で絃紫いとしのさんを膝枕しながら観戦中と言った塩梅でして(∵)。


 何故絃紫さんを膝枕しているかと言うと、早い話が絃紫さんが調子に乗り過ぎて氷の矢アイスアローを撃ちまくり魔力不足でダウンしてしまってその介抱をしているという次第でして・・・役得なんでしょうか?


「もう少し節約が出来ないんですか?」

「もうしわけありません・・・槍だとどの程度のペース配分かなんて体に染みついてるんですけど魔法使いってのはまだ新人でしてまだまだ加減が掴めないんですよぉ」


 いつにも増して殊勝な絃紫さんに、僕も柄にもなく守ってあげねばなどと庇護欲を掻き立てられる訳でしてこういう状況が醸成されてしまうのですよ。現実はほぼ逆なんですけどね・・・


 絃紫さんの父君(ロマンスグレー)とも母君(長くて綺麗な黒髪)とも守ると宣言している手前、僕の庇護下にあるんだと心に強く誓って周囲の様子を確認します。


 バタバタと薙ぎ倒されるほぼ無抵抗の豆腐小僧たちと意気軒高にさえずりながら大量虐殺をくわだてるグリフォン、そして僕たちの視界の外から淡々と観察をし続ける謎の影。外から見ましたら僕たちの方が絶対悪者ですよねぇ・・・


 他の探索者の姿をどこにもありません。僕たちがはぐれてしまったのか、将又はたまたずっと先に行ってしまって僕たちが追い付いていないだけなのか。


 とにかく今は僕たちが狩場を独占状態で他のみんなに申し訳なくなってきますね。


 朧丸が魔石が欲しいってだけで大量虐殺しているのを見るのは、いささか飽きてきたと言いましょうか豆腐小僧の方に情が移ってきたと言いましょうか・・・絃紫さんが復活し次第で移動する事にしましょうか。


 多分今のターンが終わったら、収納箱アイテムボックスの中は豆腐ばかり200丁ほど溜まっている事になるでしょうから引き上げ時と言うものですよ。


 敵意は感じませんがずっと後を追ってくる謎の人物の事も不気味ですし一先ずダンジョンから退出したいところですね・・・魔力切れで倒れたっきり一向に回復しない絃紫さんが心配になってよくよく見てみると、・・・


 置いて行っていいですか(# ゚Д゚)?


 青い顔してうなされているかと思ってたら、いつの間にか顔色もよくなり軽くいびきを掻きながらよだれを垂らして寝ているんですもの。


 黙って涎だらけの顔を写真に収め、軽く肩を揺すってあげます。


「おかぁさん・・・もうちょっと・・ねか、せ?」


 大人しく寝惚けるかと思いきや一気に覚醒して、ビュオン!と音を立てて立ち上がり槍を手に周りを警戒する姿は探索者のかがみですね・・・『おかぁさん』にはちょっと笑っちゃいましたが。


「すいません、何かありませんでしたでしょうか!」


 膝枕で平和な寝顔を見てましたとか口が裂けても言えそうにない様子に、さっき出来心で撮った写真の処遇に悩む僕です。


 ただ、涎は拭いた方がいいのでは・・・いえ!なんでもありません!


「朧丸が欲のツラの皮を突っ張らかして大量虐殺しているだけですから平和と言ったら平和ですよ」

「・・・豆腐小僧たちの平和の為にも帰った方が精神衛生上いいんじゃないでしょうか?」


 絃紫さんも無抵抗な豆腐小僧たちの大量虐殺にはさすがに良心が痛むらしいですね。


 僕たちの中では一応意見は一致したみたいですんで、そろそろ引き上げる事としましょうか?


〖フリュリュリュリュリュ!!〗


 二人掛けのソファ級の巨体に育った(そこに僕たちの意思はありません!)朧丸は遊び飽きて無いとばかりに駄々をねて転がり回ってしまいました。


 お前、その羽根を汚しているお前が潰した豆腐は1丁千円で買い上げされているんですからね。それ以上潰したらマジで魔石食べるのを禁止にしますからね!


〖ピーッ!〗


 そんなに迫力があったり恐がられたりとか僕にはない筈の要素なんですけど、僕が本気でにらむと朧丸は急にしゃちこばり伏せの姿勢になってしまいました。


 上目遣いがあざとかわいいんですけどΣ(・□・;)!


「弱い者いじめが過ぎると自分が弱くなってしまいますよ。

 ここは僕たちには不釣り合いな狩場です。(僕一人ならば話は違いますけどね)

 先の階層に行った方がいいでしょうけど、今は誰かさんが乱獲した豆腐が多すぎて僕としてももう持ちきれなくなっていますから取りあえず外に出て清算しますよ」


 不承不承と言った風情で朧丸が頷きます。


クーちゃん朧丸はやれば出来る子です。

 師匠雅楽さんの言いつけだってちゃんと守れますよ」


 これこれ恨みがましい目で絃紫さんを睨むんじゃありませんよ。


「絃紫さんにしたってぶっ倒れるまで豆腐小僧相手に魔法をぶっぱなしまくって、朧丸に偉そうに言えたものじゃありませんよ?

 練習だとしても相性が良すぎて緊張感も何もないでしょう?

 豆腐小僧一人に対して氷の矢アイスアローを10発も撃つ必要は無いでしょう?」

「いや、あれはですね。

 コントロールを付けたいのとか急所をピン(ポイント)で狙えるように準備したいのとか力の籠め方を研究したいとか色々あるんですよ、色々。

 いつでもいつまでも師匠に頼って貰えるいい女でありたいと自分を磨いてる一環としてですね」


 他のモンスターだったらラッシュアワーとかモンスターハウスとかそういうイベントになりがちな大量発生も豆腐小僧だとただ囲まれるだけ・・・他のモンスターだったらどうするとか考えながらも、ここだと大量虐殺にしかなり得ませんからカタルシスも無いじゃありませんか。


 お互いにそれで納得して来た道を帰ろうと振り返った時、そいつはそこにいたのでした。

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