第52話 社畜は非常事態を乗り切る

 もやの中から現れたのは、豆腐小僧ではありませんでした。


 そこにいたのは、平安時代の牛車ぎっしゃでした。


 その車輪の真ん中には憤怒ふんぬの表情の赤ら顔がまり込んでメラメラと赤い炎が取り囲んでいますね・・・火焔車でしたか朧車でしたか・・・その辺の妖怪いえモンスターですか。


 ・・・ここ、丁種異界でしたよね?僕の記憶では丙種の5階層のボスじゃありませんか、これ?


「ボス部屋以外でイレギュラーが起きるなんて聞いてないんですけど!」

「それもそうですけど周りの鬼火ってこっちに飛んでこないですよね?」

「飛ばします!火属性丙種5階層はまだクリアされた事が無いんですったら」


 絃紫さんの答えが呼び水になったのか火焔車(だったと思う)は、鬼火を僕に飛ばしてきます。一番弱そうなところを狙ってきましたか!


 グリフォンとスケルトンが並んでたらそりゃスケルトンを狙うでしょうよ!フン!!


 とにかく転がって鬼火をかわし、とにかく掴んだ物を火焔車(の筈!)に投げつけ、

“重くなれ!”と重力魔法を掛けて少しでもダメージを与えようとします。


 が、投げた物は火焔車(と思ってください)に届く事は無く燃え尽きてしまいます(◎_◎;)。


「コンニャクでダメージが出るんだったら苦労しませんよ・・・」

「きっと竿と糸が燃え尽きたのが原因ですから!」


 負け惜しみと解っていても言わずにはいられませんから!


 続けて飛んでくる鬼火を朧丸が吹き飛ばしますが、その風が火焔車(ではないでしょうか?)本体の火をあおり、燃え盛らせてしまいます。


「朧丸!いっそのこと燃え尽きるまで煽ってお上げなさい!

 燃えるものが無くなれば消えるかも知れませんよ」

〖ピーッ!〗


 こうなれば自棄やけです!やるだけの事をやって華々しく散るしかありません!


 朧丸が竜巻を火焔車(のようなもの・・・)にぶつけると風の勢いが火に勝り一時的に火が消えてしまいました。


 そこをチャンスとばかりに絃紫さんが、氷の矢アイスアローを滝のように浴びせ一瞬にして火焔車(仮)を沈黙させてしまいました。


「・・・うそ、勝っちゃった?」


 そんな筈は無いでしょ?仮にも丙種5階層のボスなんですよ?


 まだ魔石も何もドロップしていませんし原形は留めているじゃありませんか。


 うっかり近づかないように絃紫さんと朧丸に目配せをし、僕は落ちている懐中電灯に重力魔法を掛け、車輪の中央にある顔目掛けて投げつけます。


 懐中電灯は氷の矢で剣山のようになってしまった火焔車(匿名希望?)の顔に突き刺さり、次の瞬間、妖怪は砕け散ってしまいました。


 投擲術レベル2の力を思い知ったか!・・・すいません、見栄を張りました。まだレベル1です(´・ω・`)。


「本当に丙種5階層のボスなんですか?」

「その筈ですけど・・・未だに倒された記録が無いモンスターの筈ですから強さがこんなものとは思えませんですけど」

〖クルルッ!〗


 絃紫さんの物量タコ殴りのおかげかも知れませんが、火焔車(そんな感じ)はあっけなく敗れ去りました。


 僕たち二人は不完全燃焼で追加で何かやらされるんじゃないかと警戒していても、朧丸は手柄を主張して頭を押し付けてきます。


 まぁちゃんと仕事をしたんですから誉めるのはやぶさかではありませんよ。


 どうやら追加のクエストが発生するでもなく、ボチボチと豆腐小僧がリポップするようになって僕たちは警戒を解きドロップ品の回収をします。


 牛車の車輪が二つと巻物が一つ、そして小玉のスイカほどの紅い魔石が一つ。


 朧丸に横取りされないように素早く収納箱アイテムボックスに収容してホッと一息と言うところでしょうか。


 気が付くとそんな僕たちの周りには、プルプルと震える豆腐小僧の群れ。


 ぱっと見で20体以上はいるようですね。


 火焔車(みたいなもの)がイレギュラーポップした影響なのでしょうか、ドロップ品を回収したところで一斉にリポップしてきたみたいですね。


 手に手にお盆を掲げその上にある皿に乗った豆腐を落とさないようにとプルプル震えながら踏ん張っている姿は、モンスターである事を忘れさせ健気けなげさを応援したくなるほどですね。


「実害が無いのでしたら狩らずに放置しておきましょうか?」

「そうですね、そうしたいのはやまやまですけどね。

 ドロップする豆腐が高値で取引されるそうじゃないですか。

 魔石が朧丸のせいでほぼ全滅なんですから豆腐だけでも回収しておきませんとですからね」

〖クルル?〗


 おいそこの従魔、不思議そうに首をかしげてるんじゃありません!


 何べん言っても魔石をちょろまかして食べてるのを知らないとでも思ってるんですか?仏の顔も三度とかって言うでしょ?そんなに少なくないでしょ、お前の犯行は!


「自分で倒した分の魔石は仕方ないから諦めますけど、僕や絃紫さんが倒した分の魔石は絶対にダメですからね」


 僕がモンスターを倒す事はほとんどありませんから絃紫さんの仕事限定ですけどね、帰りがけにダンジョン事務所に提出する書類には倒したモンスターの数を明記しなきゃいけないんですけど提出できる魔石が少な過ぎる事から、僕たちはいつもサバ読み疑惑を掛けられてるんですよ。


 その分魔石以外のドロップ品を提出すればって話になるんですけど、何せ僕たちがダンジョン本庁とつい最近揉めた事は探索者界隈でも知らない者はいないくらいの事件です。


 だったら正直に提出したところで揉める要素が満載じゃありませんか。


 僕たち自身も不信感をぬぐえないでいるんです。馬鹿正直に提出して何のメリットがあると言うのでしょうか?


 どうせ提出するなら同じドロップ品でも豆腐の方が人畜無害な感じですし本庁を信じていないとは言え態々わざわざ敵対して見せる事もありませんからね。


 よって少しでも実績を知らしめる為にも、ここは豆腐小僧を刈り尽くさねばならないのです。


〖ピュリリリリ!〗


 一瞬にして僕たちの周りに群生していた豆腐小僧がすべて弾け散りました。


 朧丸の奴、魔石を独占する為に抜け駆けで鎌鼬ウィンドカッターを放ちやがったんですね?


 約束は約束です。守らなければいつか造反するかも知れません。


 もしそうなったら、僕には勝てる要素は残されていません。


 僕と朧丸の子供っぽいやり取りを呆れた顔で見ていた絃紫さんは、鼻息を太くくと首をすくめます。


「パチンコ玉みたいな魔石を1個1個拾うくらいなら他のドロップ品を大人しく貰った方がいいんじゃありません?

 費用対効果で言えばクーちゃんにクズ魔石をあげた方がお得だと思いますけど?」


 いやいやそこは飼い主としての尊厳がですね、などと反駁する隙を衝かれて結局魔石は全部喰われちまいました。


 収納した豆腐(どういう仕組みかちゃんと1丁ずつ透明のパックに入っている)は、全部で24丁で呪われた豆腐が5丁に腐った豆腐が7丁ありましたけど予定通りに呪いをすべて腐った奴に移し最終的に17丁を収納して7丁を元の場所に捨てる、もとい7丁を拾わなかった事にして先に進む事にしましょう。


 ゴミは持ち帰れとダンジョン本庁は強く主張しますが、ゴミの様な役人が減らない限り言う事を聞く気はありませんから悪しからず。


 それにモンスターのドロップの拾い漏れならダンジョンがちゃんと吸収してくれますから気にする必要も無いのですよ。


 ちゃんと自分の出した生ゴミとかは持って帰ってますからね?

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