第51話 社畜は小事を見逃す

 忘却の海に投げ捨てた筈の問題を本多さんはなんで蒸し返すのかなぁ(# ゚Д゚)!


 提案されてたのは何だっけ?


 ①ゴールデンバット②疾風の戦乙女③氷結の翼④獣王騎士団⑤グングニルだったような。


 ①以外はどれでもいいんじゃないですか?


 ちらりと絃紫いとしのさんの方を見ても赤の他人のようにそっぽを向いているだけです・・・だったらこちらにも考えってもんがありますよ。


「氷結の翼でお願いします」「げっ!」


 絃紫さんの二つ名を先に出して、このチームのメインが絃紫さんだとみんなに認知してもらおうではありませんか( ̄ー ̄)ニヤリ。


かしこまりました、丙級探索者パーティ―『氷結の翼』。

 リーダーは丙級『初めての探索者』雅楽うたい太智ひろのり、構成員乙級『氷結の戦乙女』絃紫恵梨華、従魔グリフォン、クール朧丸。

 以上で間違いはございませんか?」

「「間違いありません(けど不服ですぅ!)」」


 これでやっとダンジョンに入れますね。それにしても絃紫さんったら一応は(戦)乙女なんですから『げっ!』はおよしなさいよ。




 ようやく中に入る事が出来ました。すったもんだで7時半ですよ、すっかり出遅れてしまいましたね。


 さて、今回から入る事にしたダンジョンは、氷属性の絃紫さんと風属性の朧丸の相性を考えて決めました。


 氷、水を冷やして出来るもの。

 風、錬金術における四元素の一つで『冷』を司るもの。


 この反対のもの、となると、火、となる訳でここは丁種異界迷路型3号壕、通称お化け屋敷ダンジョンなんです。


 ここにいるモンスターは、和風な妖怪モチーフと言った感じで魔法を使う個体は発見されていないもののドロップ品が火属性である物が多く火属性のダンジョンとされているそうです。


 そう、魔法を使う個体がいない上に火属性をドロップするんです。氷魔法や風魔法を練習するのにこんなにもってこいの場所はあるでしょうか、いやありません(昔習った反語表現、でしたっけ?)。


 同じ丁級とはいえ、本来は戊級レベルの公衆便所トイレダンジョンに比べると1~2層でも力の違いは感じられますね。


 公衆便所ダンジョンだとミリピード(魔物未満の大ムカデ)に注意をする位でサクサク行けてたのがここお化け屋敷ダンジョンではそれぞれ気を抜けなくなってきます。


 上層全体に出没するのは小鬼ですね。火属性のダンジョンらしく赤いやつらだけが出て来るそうです(スピードが3倍とかふざけた能力はないそうです)。他のダンジョンだとゴブリンに相当する立ち位置でしょうね。


 1階層での豆腐小僧は、守ってあげたくなるような風貌と仕草で倒すのがちょっとかわいそうで心痛める程ですがドロップする豆腐が5丁に1丁が呪われて10丁に3丁が『ちりとてちん』つまりは腐っているのです。最悪の場合、半分は捨てる羽目になるのですよ。


 まぁ僕なら収納箱アイテムボックスを使って呪いを腐った分に移して7丁回収しますけどね。


 さらに2階層から出て来るオオイタチは油断していると死に際に最後っ屁をかましてくるのです。


 あちらこちらから漂う最後っ屁に鼻がいい加減ぶっ壊れた頃に辿り着ける3階層はと言うと、豆腐小僧と交代して出て来るようになる一つ目小僧が出合い頭にいきなりグーパンチをして来たり、化け狸が葉っぱのお札を大判振る舞いしてくれるそうです(たちが悪い事に葉っぱのお札の中に本物のお金も混ざっているとの事で化け狸の相手をした後は運べる量をはるかにしのぐ葉っぱの山に埋もれる様になりその中にある筈の幾ばくかの小銭の為に二進にっち三進さっちも動けなくなるのだとか)。


 僕の収納箱アイテムボックスにしてもレベル2になったばかりで確か容量は2メートルx2メートルx2メートルじゃなかったでしょうか?例えて言うなら僕が二人分迄なら余裕で溜め込みますってところでしょうね。


 そのくらいじゃ葉っぱ溜め込んで現金回収だとか・・・もしかしたら呪いを移せるんだしり分けとか出来るんじゃないでしょうか?


 3階層の楽しみが出来てしまいましたね。


 とは言え朝一番の探索者の襲来を経た1階層は、もはやもぬけの殻と言ったおもむきで人っ子一人どころかゴミ一つ残っていませんでした。


 仕方なく先へと進んで2階層は、そこはかとなく香る最後っ屁に顔をしかめつつも明るいだけの舞台裏と言ったおもむきで、至る所でコンニャクをぶら下げた釣り竿や人魂を表現しようとした懐中電灯に青いセロファンを張った奴などが散乱し人っ子一人見当たりません。豆腐小僧どころか悪さが本職の小鬼までもが鳴りを潜めていますね。


 まだリポップしていないのでしょうか?オオイタチ以外なら何でもいいんですが。


 もし1時間でリポップしないとなると効率が悪すぎますね。


 どうせ豆腐小僧ぐらいしかいないのですからけちけちせずにリポップさせればいいのにとか無責任な事を考えながら枯れ井戸の横を通り過ぎようとした時、僕は誰かの視線に気が付きました。


「絃紫さん・・・」

「デートのお誘いならいつでもOKですけど・・・何かいますね」


 余裕をぶちかましてくだらない冗談を飛ばしてきた絃紫さんも気が付いたようですね。


「・・・敵意は無いみたいですね。

 何者かまでは判断付きませんけど」


 豆腐小僧ではない何者かがこっちをうかがっているという事でしょうか。


 と、やっとリポップでしょうか、前方に小さなもやの塊が現れ次第に形を取ろうとしています。


「リポップの瞬間を見られるなんて縁起がいいじゃありませんか!」

「そうなんですか?」

師匠雅楽さんの頃はそう言わなかったんですか?」


 不思議そうな顔で絃紫さんから聞かれましても40年前から30年前の間にダンジョンに潜った事なんて半年だけですし、基本ドロップ品拾って呪われるくらいしかトピックが無くてそれも5階層のボス戦すら経験なかったんですよ?


 そんな昔にリポップ云々うんぬんなんて気にしていられるほど余裕があった訳ではありませんからね。


 きっと30年前からこっちで出てきたゲン担ぎのたぐい、迷信なのでしょうね。


「僕の頃は眼に映る動くものは全て敵だぁ!って吶喊とっかんしていた時代ですから気にもしなかったですね」


 ほぅ!と感心する絃紫さんを尻目に目の前の靄にどう対処するべきか悩んでしまいますね。


かわして通り過ぎましょうか」

「えー?クーちゃんの朝ごはんだって済んでいないんですよ?」


 朧丸は(絶対クーちゃんなんて呼びませんからね!)、それでなくても魔石のつまみ食いばかりしているんですから何も食べなくてもいいんですってば。


 食欲じゃなくて大きくなりたいだけで魔石を狙ってるんですから扱いが面倒にならないように食べさせる必要なんて無いんですよ!


 こうやって僕たちが方針を固めるのに手間取っている内に目の前の靄からモンスターが現れてしまいました。

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