第47話 愚か者は自らの首を絞める

 俺は、目の前の事が信じられずに立ちすくんでいた。


 俺のデスクが、俺の部署が、無くなっていた。内示は昨日だったろうが仕事の引継ぎはどうすんだよ!


 社長の娘を俺好みに作り替えて楽しもうってのがそんなに悪いのかよ!


「俺の功績も顧みないで身一つで出すとかアイツらマジでカスだぜ。

 俺のおかげでどれだけうまい飯が食えてたか解らねぇとかマジで信じられねぇぜ」


 手に持っているのは一枚の紙切れ。内容はと言うと。




『解雇通達書 

             本社営業3部部長 関原泰保


 右の者、職務怠慢、行状不良、資金横領、言動不穏により取締役会の決定に基づき懲戒の上解雇とする。


 令和XX年X月XX日

              代表取締役社長 鐘持 太』




 懲戒解雇という事は退職金が出ないクビという事だよな、ヒト舐めんのもたいがいにしやがれ。


 期日を書いてないってのが即日実施って事だったのか?


 その上、資金横領やら職務怠慢やらと凶状の提示がされている以上、このままだと刑事事件になるのは必定じゃねぇか。


 ちょっとした株取引の失敗を穴埋めする為にやった高々4000万程の端金はしたがねの事をワザとらしく取り上げるとか俺の知らねぇところで誰かが卑怯な罠に俺を嵌めやがったに違いねぇだろうが。


 どこのどいつか知らねぇが俺に恥掻かせて生きてられると思うなよ!


 それに職務怠慢てな何事だ?適材適所、そうだ適材適所だ!そいつを考えて辞めたソクワスレじゃねぇや雅楽うたいに原稿や書類を作らせたり面倒なクレーム処理に向かわせたりしていただけじゃねぇか。


 そんなチマチマした事ァ俺には向いてねぇんだよ!


 クルマヤにいた時だって俺が何も言わなくったって社長が手ェ回してたくらいだしな。


 大体代わりに雅楽に行かせたのに付いて文句を言ってきた客なんて今まで誰一人としていなかったにもかかわらずってのに今頃何寝ぼけてんだ!


 物事を大袈裟に取り上げすぎる、まるで〇日新聞の政府批判みたいな無理筋バキバキな吊し上げに逆に笑いすら出てきちまうぜ。


 こんな時は実家のクルマヤに揉み消させよう、そう思った時もあった。


 俺の恥はクルマヤの恥、だからな。


 その筈だったんだが・・・急に状況が非常に悪くなってきやがった。


 どういう積りかクルマヤが、予想外の業績悪化を懸念して保有していた某社の株を全部手放してしちまったんだと。俺がまだ中にいるのにどういう積りだってんだよ!


 当然、報復として某社もクルマヤの株をきれいさっぱり放出しちまって資本上の関係が無くなって、結果としてこちらの言い分が通りにくくなっちまった。このままじゃマジで一文無しになっちまうかもしれねぇってのにオジキクルマヤ社長は何考えてんだよ。


 株を放出し合ったせいでお互いの株価は当然ながらストップ安を記録しちまって、おかげで株式市場は現在絶賛大混乱中だ。両方の株握ってる俺の身としちゃ落ち着いてくんねぇと飯が食えねぇだろうが、って事で。


 どうかしてるぜ。こんなんじゃどうしようもねぇからオジキクルマヤ社長んトコへ電話を入れてみるか・・・着拒だと?


 武者修行に行けってこっちに行かせたのはオジキじゃねぇのかよ!


『社長になるための次のステップとして外の空気を嗅ぐのも大事な事だ』とか言って俺を優しく抱きしめて送り出したのはオジキだったろ?


 アソビで手ぇ出した受付にガキが出来ちまった時もちょろまかして豪遊した小遣い銭の出どころに雑誌が食いついてきた時もバカラで出来ちまった借金を踏み倒して反社が会社に乗り込んできた時も・・・えーとまだいろいろあったんだけどちょっと忘れちまったけどさ、いつだってオジキは俺の味方じゃなかったじゃねぇか。


 あん時『ヤンチャの一つもできない奴にはデカい仕事なんか何にもできるはずなんかないんだから気にすんな』って励ましてくれたよな。


 あ、メールだ。


『離婚してください。親権は私が取ります。後は弁護士を通してください』


 嫁からだった。


 慌ててLI〇Eで呼び出そうとしたけどブロックされちまった。


 家族も飲み仲間もアソビの奴も全部だ。


 これじゃまるで俺が捨てられちまったみたいじゃねぇか。



「こんな筈じゃねぇ。

 こんなバカな事が有るか?

 俺が何したって言うんだよ。

 俺はこの国を、この世界を動かしてくお宝なんだぞ?

 俺にこんな事して許されるとでも思ってんのか?


 くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 俺は一人どこへ行く当てもないまま、ただ立ち尽くしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 10万字を突破しました。


 こんなしょぼい回で越す事になるとは思っても見ませんでしたけど、ひとえにこんな退屈な駄文に付き合ってくださる皆さんがあっての事だと思っています。


 しかしこれのどこにファンタジーが潜んでいるんでしょうかね(苦笑)。


 まぁ気長にお付き合いいただければもう少しファンタジーっぽさが出て来るかもしれませんが(全く自信が無い)・・・努力します。


 それでは今後ともヨロシク。

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