第45話 元社畜は人事に懸念を示す
「君に関する情報について君が口を出すのは
「不正な操作の末にワタクシが不利益を
まぁ敵対してるっちゃしてますけど不正の臭いがプンプンしていますが?
「では誰が適任であると君は判断するんだね」
「もちろん、本庁の根津です。
彼なら中立かつ公平な行動を取れますし、この端末の操作にも
これ以上の適任者はいないモノと自負しております!」
要は、自分の都合のいいように端末を
「僕からも一言言わせていただいても構わないでしょうか?」
森野首相は、鷹揚に頷いてくれます。こういう時ってちゃんと見てますと言うスタンスを見せている事が重要なんですよ。
「ここに集められている顔ぶれが大庭センセに近しい者が過半数を占めていますから最初から公平ではありませんし
中立だという割には昨日のミッションでは妨害もどきの行動を取っていましたし、グリフォンは国に返還すべきだと発言したのも彼です。
ここに大庭センセの論拠に不審しかない事を表明させていただきます」
何でしょうか、首相のその面白がってる顔は?
「大庭君、反証してみるかね?」
「そうは言われまして機械をイジれるものが他にいないのでは先に進みませんので」
都合が悪い話は、時間が無いと人手が無いに集約して切り抜ける気満々ですね。
「いじるだけなら私だって出来るんだが?」
首相の予想外の発言にその場の空気が凍り付きます。
どこかの誰かさん(ルビ要ります?)は文字通り凍り付いてますけど、僕たちは
「いえ、そんな、
「立ってるものは親でも使えと言う
気にする事は無い、大船に、と言うほど大層な事が出来る訳じゃないが検索程度の事なら常日頃やっている事だ、任せてくれ」
エゴサとやらを常日頃やっているのが
なんなら水でも被ったみたいな大汗掻いてどこか加減でも悪いんでしょうか?
すいません、頬が緩むのを止める事が出来ません。
老眼鏡を掛け、覚束ない手つきでコンソールを操る首相の所作に一喜一憂する大庭センセと本庁の根津、傍観者に徹している厚労省の役人になす術も無く置物と化している鬼ババア、そしてその場の事を部外者として観客として見ている僕たち。
「うーむ、乙級に村井信吉の名前は残されていないようだが?」
散々端末をこねくり回した結果、首相は村井信吉が架空であると断じました。
「一つ提案がありますがよろしいでしょうか?」
「おぉ、初めての探索者さんの申し出なら無下にはしませんよ」
「それではソートする情報をこう変更してみては如何でしょう」
僕は口頭では無く、大庭センセたちに判らないようにメモを書いて首相に渡しました。
「わかった、今度はこれでやってみよう」
やがて端末にヒットした情報が開示されます。
『村井信吉 戊級 (56歳) 最終在籍 丁級“冒険の
平成XX年 丙種異界湿地型6号壕にて失踪』
平たく言うと戊級探索者の村井信吉氏、もし生きているなら現在56歳で最終的に生存時に所属していたのが丁級パーティー冒険の誘い、平成XX年に丙種の湿地型ダンジョンで失踪したという事ですね。
「戊級?乙級から3ランクも下なのかね・・・それで丁級パーティーに参加していて丙種ダンジョンで失踪・・・確かこのダンジョンは」
「通称“伊豆のワサビ園ダンジョン”、ワサビ園事件で失踪した一人ですね」
「ちょ、ちょっと待て!戊級の同名を引き合いに出してどうするつもりだ!
名誉棄損で訴えてもいいんだぞ!」
僕は無様に喚き散らす大庭センセを一瞥すると首相に耳打ちをしました。
「冒険の誘いは、かつて僕を
リーダーは先程から何度も名前の挙がった木村紳市。
僕がいた当時の村井は小太りの鎗使いで木村の腰巾着の一人でした。
ただ、僕が抜けてすぐに探索に失敗して片足を失って引退したと聞き及んでいます。
大庭センセが何代目の村井信吉だかは知りませんが、僕の知っていた村井は『むらいしんきち』でした」
「偽名の可能性が高い、か」
「ついでに言わせて貰えば『むらいしんきち』は『きむらしんいち』のアナグラムです」
本当でもウソでも森野首相の意識に大庭誠実への疑念が残ればと思っています。
そうすれば自然と大庭誠実の行動に対して批判的な注目が集まる事と思います。
そしてそれが引き金になって失脚なりなんなりにでもなれば僕としては溜飲が下がると言うものなのです。
「初めての探索者さん、そんなに長く待たせはしませんから大庭君たちへの処分を見守って貰えませんか?
ダンジョンの件もその結果次第で判断して貰えるなら」
「長く待たせないとは言われましても期限を区切って貰いませんと身の振り方に影響が出てきますので」
森野熊三首相は太い息を一つ漏らすと僕の眼を見てこう言いました。
「一週間後にはケリを付けます」
国のトップの責任ある言葉に僕は微笑みを返しました。
一度信用してみる事にしましょうか、一週間後には就職しているかも知れませんが。
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