第43話 元社畜は悪事を裁いて見せる

「大庭代議士、お初にお会いする筈ですが僕の事をご存知で?」


 僕の問いに大庭誠実氏は鼻白んだように顔をしかめる。


「30年近く音沙汰無かったのに急に出戻ってきてグリフォンをテイムしたとあっちゃ調べなくても解るってもんだろ?

 ポーターしかできない癖称号を持ってるとかふざけた野郎の事を俺たちと同世代の人間なら誰だって嫌っていたからな」


 面と向かって嫌いって言われてしまいました・・・この雰囲気、どこかで感じた事が有るんですけど果たしてどこでだったのやら・・・


 嫌いだから嫌がらせをするって子供じみてますよね。


 このたらい回しも嫌がらせの一環だったという事でしょうか?


「ポーターしか出来なかったのではなくポーターしかやらせて貰えなかったんですが?」

「俺の古い知り合いに木村紳市ってのがいるが覚えているか?

 雑魚も倒せない癖にダンジョンに入りたがるから仕方なくポーターで使ってやってたそうじゃねぇか」


 ・・・あぁ、そうですこの感じ、チンピラの木村に似ていたんですね。


 当時、親を迷宮氾濫オーバーフローで一度に失くし、金の為にダンジョンに入らざるを得なかった時の事を言ってるんでしょうね。


 ただ、取り分は他のメンバーの半分、アイテム拾いの段階で呪われること数回で治療費用は自前。ポーターだからって理由で護身用の武器さえも持たせて貰えなかったんですから戦うチャンスがあったとしても雑魚も倒せないのは当たり前じゃありませんか。


 とてもじゃないけど採算に合わなかった事と木村とその取り巻きからのパワハラに耐え切れずに半年ほどで辞めたんです。


 当時、僕の名前でダンジョンに優先的に入れた事から籍だけは抜くな、ただ無報酬と言う破格の扱いに、それ以降ダンジョンに入る事を諦めるきっかけになった連中の事を僕が忘れる筈が無いじゃありませんか!


「木村紳市って言えば伊豆のワサビ園(ダンジョン)でイレギュラーボスに遭遇したからって仲間を犠牲にして一人だけのうのうと逃げ帰ったあの伝説の卑怯者の事ですね?

 師匠雅楽さん、半年で辞めて正解だったんじゃありませんか?」


 気持ちよくき下ろす絃紫さんに大庭誠実氏と根津氏は不機嫌気味の無表情に特殊健康診査室室長はニヤニヤ笑い鬼ババアは興味が無いのか無反応になってますね。


「その木村氏とは僕が復帰してから一度も噂すら聞き及ばないんですがまだちゃんと生きているんでしょうか?」

「話によると常習的に“トレイン”を繰り返してたようですし、例のワサビ園事件の事もありますし相当生き汚い方だったようですから名前を変えてその辺にいるんじゃありませんか?」


 黙り込むダンジョン本庁勢に対して意図しているのかしないのか定かではありませんが、絃紫さんの扱き下ろしが止まりません。


 正直もっとやれとけしかけたいところですが、そんな事ばかりしていても話が進まない事も事実です。


 僕は、断腸の思いで絃紫さんに目配せをしつるし上げ大会を終了して貰いました。


「ところで僕たちをこんなところに呼び出した本当の要件は何なのでしょうか?」


 挨拶も無しに不快な思いばかりさせられていたのですからさっさと帰りたいのですが、出国の準備などもありますので。


「昨日の公衆便所トイレダンジョンでのドロップ品の提出がされていない」


 何を寝惚けた事を、ドロップ品は探索者に所有権が認められていてただダンジョン事務所に優先的に査定を任せているだけじゃないですか。


 探索者側としては、さっさと金が欲しいので査定をした後買取がその場でなされる事が多いってだけの事じゃないですか。


「厚労省に1個は回収して貰っていましたよね。

 あれだけの金で辛抱できないんでしょうか?欲張り過ぎでしょう?

 それに僕たちが望んでいる事は探索者全体に多大な恩恵をもたらす筈のもので速やかに実行して貰いたい、それだけのことを主張しているんですが?」

「ダンジョンで産する全てのものは国家の財産であって一探索者の所有するべきものではない。

 よってダンジョンより“産出”されたドロップ品およびモンスターは国家に帰属するものである。

 以上の理由をもって雅楽太智のテイムせしグリフォンは日本国が回収するものとする。

 これが我々の見解だ」


 グリフォンを回収するって話はここから来ているって事か。


 探索者によって打ち立てられたはずの政府も、今や官僚のてのひらの上にあるって訳ですか。


 ここでグリフォンを暴れさせれば僕が傷害罪やら殺人罪やらで捕まる事は解っていますし治安のよくないダンジョン界隈のイメージアップの為には強い政府を演出しなければならないでしょうから、僕からグリフォンを取り上げてしまえれば一石二鳥という事でしょうね。


「要は、探索者の権利は一切認めない。

 ダンジョンの要求も一切無視する。そういう事ですね」

「だからあたしに明日をも知れない一探索者から政治屋の愛人に格上げしてやるからこっちに来いって言いたい訳ね」


 政治屋の言葉に眉を跳ね上げたものの、大庭誠実は下種げすな微笑を絶やさない。


 政治には信念があるが政治には邪念があるって訳ですね。


「交渉とは実際に会うまでに結果が決まっているものだ。

 無駄な抵抗なんかしないで言う事を聞いていればいいんだよ」

「先の見えない政治屋風情が何を言ってるんでしょうか?

 アンタ、二代目なんですって?」


 『政治屋風情』にさすがに微笑を引っ込めた大庭誠実は、眼を細めて僕を威嚇してきます。


「探索者に出戻った貧乏人に偉そうに見下される筋合いはねぇんだよ。

 舐めるのも大概にしろや!」

「大声で恫喝すれば周りが引っ込むと思っているとは、まるで反社じゃないですか。

 さぞかし『剣聖』さんも肩身が狭い事でしょうね」


 僕の発言に訝し気に眼を細める政治屋。


「剣聖だぁ?

 それが俺と何のかかわりがあるってんだ、あぁ?」

「『剣聖』こと木村真凛さん、アンタが捨てた二番目の奥さんとの間のお子さんじゃないですか。

 二代目大庭誠実こと旧名木村紳市。

 アンタにされた事は今でも忘れられませんよ。

 顔は整形できたかもしれませんが性格は誤魔化せないようですね」


 この男は初代大庭誠実のもとにワサビ園事件の後に潜り込み、その娘を篭絡し、それまでの妻子を捨ててダンジョン界隈に詳しい二代目大庭誠実となって甘い汁を吸い続けていた。


 大庭華女あやめは、その過去を握っているが為に方々で問題を起こしても大庭誠実が必死で揉み消し続けていた、そういう構図が出来上がっていたんでしょう。


「ここに大庭華女さんを呼んでまで僕を糾弾しようとしたのは僕の息の根を止めるのと華女さんへのアピールの為ですよね。

 そこにはステータス更新なんてものはどうでもよかったんです。

 僕を呼び出すのに都合のいいただの“単語”なんですから。

 今の政府が腐っている事は十分解りました。

 もうこの国には未練はありません、愛想が尽きました。

 ですから出国します。二度と戻ってくるつもりはありませんから悪しからず」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 いつの間にかダンジョンも何も関係ない話になってしまいましたぁ!

 まだ日本を見捨ててる訳ではありませんから次回を見てくださると助かりますぅ!

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