第42話 元社畜は雑事に振り回される
折角助けはしたものの、あのおばはんも中々な曲者でした。
グリフォンに引きずられて出てきた時も紫色の顔色であらゆる体液を垂れ流しながら(当然ながら大変臭いです)胸元にしっかりと抱えられていたアレを手放すという事をしないんです。
呪われた金のインゴットの事ですよ。
呪われた物持ってたって呪いは解けないんですけどね。
こんなになっても物欲は消える事が無い様でうわ言のように『これはあたしのもんだ。査定になんか掛けるものですか!』と呪文のように繰り返し、血走った眼で助け出した僕たちを睨みつけるんです。
不本意ながらダンジョン本庁の男から連絡先を聞き出し、所属先の厚生労働省特殊健康診査室に引き取って貰いました。
特殊健康診査室って呪いの研究してるところじゃありませんでしたっけ?
とにかく一応、注意事項はちゃんと伝えましたからね。呪いの解き方とか呪いに掛からない方法とか汚染物質の処理方法とか・・・みんな金の方に気を取られて聞いていないようでしたけど。
まぁ、もしおばはんが呪いから生還できた暁にはきっと職業ポーターが生えている事でしょう。
ポーター時代の経験上そう言うのには詳しいんです。
どうも職業ポーターの特徴として呪いに対する耐性があるみたいで、僕の場合レベル6ですから即死クラスの呪いでも体調が悪くなる程度で済むみたいですね。
なんせ、戦力に数えられてませんから代わりに呪われてろってのをずっと続けていたせいでしょうか。
だから何も気にせずに落穂拾いをしようと思った・・・どうしてでしょう、落穂拾いで食べようかなんて考えていた時は、呪いの事なんてすっかり頭から抜け落ちていましたね。
もしかしてダンジョンちゃん、なんかやった?
情報統制かなんかされてませんか、ダンジョンさん?
まぁそれは置いておきましょう。
で、結局18ヶ所目のたらいまわし役所巡りの旅にいつものように
場所は違法配信で大揉めに揉めた某市市役所の特殊能力管理課・・・ハッキリ言って振出しに戻っています。
今ここにいるのは、僕たちの他には僕をつけ回していたダンジョン本庁の男と呪われたおばはんの上司を名乗る厚労省特殊健康診査室室長、そしてダンジョン界隈の『天皇』ことダンジョン本庁元長官 大庭誠実にその義妹鬼ババアこと大庭
とても公正な人選には思えないんですけど?
ところで今更ここで何をしようと、いえ、何をさせようとしているんでしょうか?
「何をどうしたくてここに呼ばれたのか、お聞きしてもよろしいですか?
その話次第によっては帰らせて頂きますけど?」
おっと、一発目から絃紫さんの強烈な一言から始まりですか!
「中々威勢のいいお嬢さんじゃないか、根津くん。
彼女が報告書にあった『氷結の戦乙女』の絃紫恵梨華嬢か?」
ほぅ、大物ぶって絃紫さんの質問は無視ですか・・・実りのない会になりそうですね。
根津と呼ばれてしゃちこばるのはダンジョン本庁の追跡者ですか。
名刺を貰った訳でも挨拶を交わした訳でもありませんが、こんなところで初めて名を知るのもなんとも言えず嫌なものですね。
「名前を憶えて頂き光栄でございます。
確かに彼女が乙級探索者の絃紫恵梨華でございます」
「あなたに呼び捨てにされるいわれはありませんが?
あたしがその『氷結の戦乙女』ですけど何か文句でも?」
中々に喧嘩腰の絃紫さんに向かって大物ぶった男はうすら笑いを浮かべて答える。
「こんな逸材を埋もれさせるのは惜しいと思ってね。
どうだね、俺のところに来ないか?」
ここは何の為の会合なのかでしょうか?
「要件は御済みですか?
こんな茶番が待っているんだったら来なければよかったと後悔しているんですけど」
「兄さんになんて事を言うの!
今すぐ謝りなさい!謝らなきゃ死刑にしてやるわよ!」
鬼ババア、失礼、大庭華女さんのキレッキレの暴言で場は一気に殺伐としてきましたね。
この人は何のためにここに来てるんでしょうか?
「死刑に出来るものならしてみなさいよ!
権力に屈するくらいなら死んだ方がマシよ!」
売り言葉に買い言葉で余計な事を言うんじゃないんですよ。
官僚ってのは、言葉尻を取って揚げ足取りするのが得意技の人種なんですから。
文脈の流れを無視して単語のインパクトだけで炎上を演出するマスゴミと何ら変わりが無いんですからね。
「絃紫さんも
「ほぅ、貴様が『最初の探索者』か。
随分威勢がよくなったようだな。この俺に意見するとは」
別に意見した訳では無いんですけど、無駄な時間を過ごすくらいなら就職の面接に行きたいんですけどね。
そこそこお給金がいただけそうな会社にひっかっかりそうなんです。
そうしたらもう探索者の事は忘れて生きて行けるんですけどね。
・・・大庭誠実って僕の事を知っているんでしょうか?
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