第23話 元社畜は変事を赦さない

「ここで問題です、僕は何者でしょうか?」

【『始原の覇者』!えーと、『初めての踏破者』。んーと、『未知なるものに愛でられし者』?あーっ、『初めての探索者』・・・あとなんだっけ?】


 ・・・僕ってそんなに肩書有りました?始原の覇者はさっき貰ったばっかりだから解るとして(納得はしてないけど)初めての踏破者って未だかつてダンジョンの底に到達した者がいないのに僕が名乗っていいんですか?僕が行った事あるのって図書館ダンジョンの1層にお稲荷ダンジョンだと3層まで、それから公衆便所ダンジョンの3層までぐらいなもんなんですけど?それもポーターとしてですね。それから未知なるものに愛でられし者?意味不明もいいトコなんですけど?


「そちらから頂いた称号の事を言ってるんじゃないんですよ?

 僕は誰なのかって事ですよ」

【・・・?始原の覇者の雅楽うたい太智ひろのりだよ?】

「今の僕を見て誰がそう言い切れるんですか?」

【・・・?はじめてみたときとおんなじだよ?】


 そう、多分今の僕は40年前の初めて図書館ダンジョンに踏み込んでしまった時の姿に戻っているんでしょうね。きっとイガグリ頭の中学生ですよ、40年も経っているのにね。


「じゃあ、今の姿で誰が雅楽太智だって認識してくれるんでしょうね」

【?ここだとだれもうたがわないよ?】

「ここだとそうかも知れませんね。でもここから外に出た時はどうでしょうね?

 54の雅楽太智の免許を持った14の子供が出て行って誰が信じてくれるんでしょうね?」

【あのころのえを見せたらみんなしんじてくれるよ♪】


 あまりに能天気すぎるでしょ?あの視線以外には姿を見せない声だけの存在のダンジョンに僕は苛立いらだってきました。指紋とかDNAとかで特定できるかも、とは思いますけど僕自身が同じ個体であるという確信が持てないんですよ。


「それじゃあ今までにダンジョンでそんな事ってありましたか?」

【ん~ん♫あたしは見たことないよ】


 ダンジョン全体とこの声は、同一のものだと僕は解釈しました。


「じゃあ、世界で初めての事件が起きた訳ですね。いくらダンジョンが外とは違う所だって言っても今まで無かった事が起きたって事で、僕はまず疑われるですよ」

【なんでうたがわれるの?】

「殺したかどうかしてライセンスを奪ったに違いないってね」

【じゃあ出なきゃいいじゃん♬そしたらずっといっしょにいられるよ♡】


 なぜこいつが、僕を執拗にダンジョンに誘ったのかなんか理解できたような気がしますね。


「つまりは僕はその辺のモンスターと同じ扱いに変わるって訳ですね」

【あたしといっしょじゃいや?】

「いやとかどうとかじゃないんですよ。

 きっとこのグリフォンも大きくなったら外に出られないって言うよりこの部屋から出られなくなるんでしょうね。そして僕もずっとこのしょんべん臭い穴蔵から出る事は無い。

 出られないからずっと下まで潜って踏破するだろうって事で初めての踏破者って称号が僕に付くのか・・・最初から狙ってたのかな?」

【え?】


 絶句したのかダンジョンが沈黙する。今まで無邪気な幼稚園児と不毛な会話をしてたみたいでしたから静かになって何となく寂しい様なホッとする様なそんな感じがします。


 グリフォンはと言うと、さっきので味をしめたのか態々わざわざ部屋の隅まで出張してはGきぶりの羽根やらゲジゲジの足やらカマドウマの触角やらをせっせと戦果として僕の足元に積み上げています。


 ちゃんとモンスターになっているヤツのばかりだけど素材として換金できる魔石とかは持ってきてくれないのが玉にきずでしょうか?心なしか、一回り体が大きくなっているみたいな気がしますけどどうでしょ?


 僕の記憶では生まれたてのグレートピレネーくらいだった筈なのが豆柴の成犬くらいになっているように見えてるですが。成長したら軽自動車よりでかくなるって事でしたから、きっとこのダンジョンの部屋と部屋を繋ぐ通路では幅一杯になって身動きが取れなくなる事でしょうね。


 こんな洞窟型とか迷路型みたいな狭い通路とか回廊とかで構成されたダンジョンでは取り回しが難しい大きさになるって事ですよね。なんでこんな狭いダンジョンに現れたのか、ガチャみたいに完全に運だったら仕方ないにしてももし立候補制だったとしたらとんでもない間抜けって事になるんじゃないでしょうか?


 普通、成長したグリフォンが現れるダンジョンと言えば疑似的に空がある開放型、じゃなければフロアボス部屋ですよね・・・このダンジョンってこれからは入っていきなりフロアボス戦をしなけりゃならないって事ですか?そして僕はその付き添い?


「気のせいですかね、グリフォンが大きくなってるような気がしますけど・・・」

【せいちょうしてるよ?】


 流石はダンジョンのモンスターと言うべきなのか、既に騒ぐ事を忘れた僕がいる。


「そんなに成長って速いんですね」

【さっきからかりやってるでしょ?】

「そうですね、羽根やら足やら沢山持ってきてくれてますね。飼い猫が飼い主に狩った鼠の死骸を見せに来るって聞いた事ありますからそれと同じですかね?」

【いし食べたのこりをもってくるの、かわいいよね♫】


 石食べた残り?魔石を喰ってるって事?この階層で唯一お金になる魔石を食べてるって事は僕の収入はゼロなんですけど?


「石を食べないと死んじゃうのかな?」

【ううん、大きくなれないだけ♪】


 なんてこったい、大きくなられても困るし収入が無いのも困るじゃないですか!


「それでは石を食べずに持ってきてもらえるかな?」

【おー♬それじゃこれを飼ってくれるんだね♡】


 何でそうなるのかな?


「それはまた別の話ですよ。だってこのまま食べ続けたらこのダンジョンのいきなり1層のフロアボスになっちゃうじゃないですか」

【飼わないんだったらなにやってもいいじゃないの(# ゚Д゚)】

「考えても見てくださいよ、そうじゃないといきなりフロアボスが出るダンジョンだって誰も寄り付かなるじゃないですか」


 もしかしたら腕自慢が大挙押し寄せるようになる可能性も否定はしませんけどね。ただ、世間がいまだに10層を越えられていない現状からすると敬遠される方が確率は高いでしょうね。ここも10層までしか攻略されてない事ですし、もうちょっと凄い捜索者がこの世に現れない限りすたれると思いますよ。


【えー!どーしよー!】


 ・・・君ね、本気で悩んでないでしょ?


「僕を元通りにしてくれたらグリフォンをテイムしても構いませんよ」

【やっともらってくれるんだね♫】


 前提条件を忘れちゃ困るんですけど!


「元通りにしてくれたらですね」

【えー!せっかくがんばってはじまったときにもどしたのにー(´;ω;`)】


 このままじゃ誰も信用してくれなくて義務教育やり直さなきゃいけないでしょ?


「一時的に若返ったところで行きつく先が解ってるんですから特に嬉しくは無いんですよ」


 そう、チビのままで貧相なハゲになるって解ってるのに取り繕ったところで何になるんです。隠さず騙さずありのままを受け入れてくれる相手がいてくれたらいいんです・・・まだ見かけませんけど。

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