第22話 元社畜は世迷い事を信じない

 ダンジョンは僕にグリフォンをくれようとしてる?

 いやいや何で僕がダンジョンから貰いものをしなくちゃならないんですか。散々呼びつけて訳の分かんない名前を付けてそれで満足してくださいよ。


抑々そもそもですけどこの子グリフォンって風魔法とか本当に覚えられるのかな?」

【フロアボスクラスになれるしゅぞくだからおぼえれるよ】

〖クルッ!〗

「僕の読んだ事のある文献じゃグリフォンの攻撃手段って単純に翼で仰いで強風を浴びせるとか鳴き声で威嚇して相手を硬直させるとか体格を生かした体当たりだとか、後は突っつく引っ掻くとかって書かれていたんですけど?」

【それはほら、のらのグリフォンだからだよ(゜▢゜)】


 抑々風魔法なんて用語を僕は知らないんですけどね。僕たち探索者の中じゃ“風属性”魔法って言い方をするけど、鎌鼬ウィンドカッターとか排気術エアチェンジ程度しか種類は無いんですけどね。漫画や小説に出て来るみたいな竜巻とか風の障壁みたいな魔法を人間が使えたって話はまだ聞きませんし、もしかして強風を浴びせるヤツが風魔法なのかも知れませんけどそんな事は今は関係ありません。


【にんげんどもがかぜぞくせいとかっていいかたしてるのはしょきゅうまほうなんだよ?もっとすごいのがいろいろあるんだからね?】

「でもグリフォンで人間相手に使ったって文献は無いんだよね」

【・・・あなたがおしえてあげたらおぼえられるって(・・;)】

「人間が使った事の無いような上位魔法を僕がこの子に教えるんですか?」

【そ、そう!あなたがやったらだいじょーぶだから♬】

「教える為には僕が知らなきゃいけませんよね?僕の魔力は一般人とほぼ同じだって知ってました?」


 そう僕は、大学の頃ダンジョンに潜る資格を取るために能力測定をした事があるです。そしてそれはほぼ一般人と同じレベルでした。

 今でも苦い思い出の一つだよ。


【しってるのとやれるのはべつものだから!】

「つまりはグリフォンも覚えられると仮定しても使えるかどうかは別問題って意味で解釈していいんですよね?」

【・・・うぇ~ん(´;ω;`) ごまかそうと思ったのにバレてるよー(´;ω;`)】


 底の浅い考えでだまそうとかするからです。


 その時、グリフォンがばっと僕から飛び立ち(当然その勢いで僕はひっくり返った)近くの地面に降り立つ。その足元には長さ50センチほどのムカデが必死でうごめいている。誇らしげに僕を見上げるグリフォン。

 要するに狩りをしたから誉めてって言ってるんですよね。当然あんなのに嚙まれたら僕は死にかねないので褒めるしかないのですけど。


「いてて、おぅよくやったね!できれば処分して欲しいんだけど、出来ますか?」

〖クルッ!〗


 グリフォンは、意気揚々とムカデを引き裂き牙の付いた頭を僕の所に持ってくる。

 死んでいるとはいえ、昆虫系はまだ動くんだから危険なんだって!ほらカチカチって顎を鳴らしているでしょ?

 ちなみにこのサイズはダンジョンの中ではモンスターとしては扱われません。小さくても1メートルは越えてこないと大ムカデセンチピードとは呼ばないんです。この大きさではモンスターの要件を満たす魔石が出来ていないので仲間うちだとミリピードなんて呼び方をしてましたよね。センチより小さいからミリだとか酔っぱらった挙句にどっかのおっさんが思いついたんだろうけど実に下らないものです。


 そんなくだらない事を考えながら、無邪気に小首を傾げるグリフォンの頭をムカデに気を付けながらおっかなびっくりと撫でる。まだ雛なせいか羽根が柔らかいですね。


【おぉ!なんてうつくしいしゅじんとじゅうまだよね!これでおまえもごすじんさまからみとめてもらえたよね♬】

〖クルルル~♬〗


 お前ら、何を三文芝居やってるんですか・・・これくらいで情に流されるとか思わないでくださいね?


「そう言えば歌が歌えるって言ってましたよね?じゃあしゃべれるの?」

【・・・と、とりがしゃべるはずがないでしょ(・・;)】

〖ク、ククルゥ?〗

「外の世界を知らないって悲しいですね。外じゃ九官鳥やら鸚鵡おうむやらって喋れるんですよね。あぁ、近いトコにいるヤツだったらからすとか百舌鳥もずなんかも喋れるようになりますけどねぇ」


 本当は単に鳴きまねなんですけどね。


 ダンジョンは黙り込み、グリフォンは眼が泳ぎ挙動不審になってるよ。じゃあ歌うって何なのかな?


「喋れないのに歌うってどういう事なのかな?」

【うたをうたうじゃなくてウタをうたうんだよ(^^♪ とりってさえずるっていうんでしょ?それなの♪ 今はまだひなだけど大きくなったらウタでなかまにゆーきをあたえたりまほうのききをよくしたりとかできるようになるんだよ♫】

「ウタは自分で覚えるけど魔法は教えて貰えないと出来ないんですね」

【それはごめんして!ほんとーにはんせーしてるから!】

〖ク、クルゥ?〗


 それに関しては、お前はシロだから心配しなくていいですよ。個人的にウソつきダンジョンにやり返してるだけだですからね。


「それにしてもダンジョンの壁を突き抜けるとか盛り過ぎじゃないんですか?」

【んじゃなくて、かべに穴をあけられるくらいツメがするどいってことなの・・・ウソじゃないよ?】


 少々話を盛って意地悪を言うと素直に訂正をしてくるあたりダンジョンって擦れていないような気がしますね。大体ダンジョンの壁って剣とかが刺さる事まではあっても穴が開く事なんてめったに無いんですから物理攻撃がかなりの威力だって言ってるようなもんですけどね。


「でもクルマ並みに大きくなるって事はこの広間よりも大きくなるって事だから連れてなんて行けないよね。身動き取れないだろうし通路とかにハマって中のモンスターにいじめられ放題で可哀想な事になるの確定じゃないの」

【へっ?ジドーシャよりおっきくなるだけでクルマみたいにはならないよ?それじゃドラゴンとおなじおおきさだもん?!】

「自動車とクルマは同じものですよ」


 ただ一人乗りの電気自動車から普通の軽、コンパクトカー、普通車、バス、ダンプ、トレーラーからクレーン車とか大きさの基準の幅が広すぎるって揶揄からかってるだけなんですけどね。この辺の駐車場には軽ぐらいしか停まって無いからそれを基準にサイズの説明をしたんでしょうけどね・・・あまり意地悪するのもなんですから素直に軽の大きさを教えて安堵させてあげたのは言うまでもありませんよね。


 なんか慣れてきて、グリフォンもダンジョンも恐く無くなってきましたね。


 さて、ここで一番の爆弾を落としてあげましょう。

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