第15話 社畜は悪事を暴こうとする

「きっ貴様、俺を脅迫するのか!そんなに彩様を連れ戻すのが嫌なのか!」


 何を論点をずらそうとしてるんでしょう。


おどされると思う時点でギルティだと思いますよ。

 こちらは淡々と作業を進めるだけですので」

「ふん!どこの誰がお前程度の雑魚ざこ戯言ざれごとに耳を傾けるってんだ!お前はヒラ、俺は部長だぞ?

 社長も会長も他でもない俺に全幅の信頼を寄せてくれてるんだ。不景気の塊みたいなお前じゃ無くてな!

 お前が出す資料なんてだぁれも見たりしねぇんだよ!俺が出すから見てくれてるんだ!あーっ辛気臭いゴミカスがいなくなって清々するわ!サッサと負け犬らしく尻尾丸めて逃げていくがいいさ!」

「・・・この際ですが僕のセクハラ認定がどうなったかは覚えてますか?

 それに、もうどうでもいい事ですけど書類の提出期限は守るように気を付けてくださいね、一番近いのは確か明日が期限だった筈ですから」

「彩様の気まぐれで生き残れた癖して偉そうにしやがって!それにお前がいなくったって書類ぐらいどうにでもなるんだ!おい、酒匂さこう君!酒匂君・・・酒匂?

 酒匂はどこに行った?」

「彼は鼻がきますからね、アンタが騒いでる間に『お嬢様を見つけるんだ』とかって言い残して出て行きましたよ。どうせパチンコか競艇にでも行くんでしょうけどね。

 さて彼もデスクワークは苦手でしたからこの先どうしていくんでしょうね、まさかとは思いますが室長彩お嬢様にでもゴーストライターになって貰いますか?」


 他に部下はいないのにどうするつもりなのか、彩お嬢様は社長様の次女様だから頼み込もうものなら社長様に所業が即バレる事でしょうよ。


 セクハラ案件をなすり付けた僕がシロになった時点でバレてるとか思わないのですかね。社長令嬢の肩を抱き寄せてくだらない自慢話や法螺話をやったのが発端で事件になったって言うのにおめでたい男ですね。


「背に腹は代えられんか・・・どうせ有休も消化できて無いダメ社員なんだ。お前、有休を消化しきるまで事務仕事俺の仕事こなしておけ!」

「有休を使わせなかった人の言葉とは思えませんね。有休って有給休暇の略だって事はご存じですか?まぁ自分では活用してたんですから知ってはいたのかもしれませんがね。親族の葬式の時でもコロナで寝込んだ時でも盲腸で病院に担ぎ込まれた時でもサボり扱いして給料減らしてくれた事は忘れませんよ」

「部下を監視して仕事をさせるのが上司の役目だからだ。それに嘘は通用しない!」

「ちゃんと親族の死亡証明書も提出しましたし病院からの診断書も提出しています。

 それにコロナの時なんてこの部署からは誰もかかっていませんとか申請して会社から金一封をせしめてそれをネコババしたでしょう」

「バカ言え!あれは日頃の人事管理に対するオレ個人への報償だったんだからお前たちに恵んでやる道理は無いじゃないか!」

「その時の文面を僕が覚えていないとでも?あれ、僕が起稿したんですけど?」

「小さい事にウダウダ言うんじゃない!だからお前は昇進できないんだ!」

「じゃあ、僕が出した証明書やら診断書はどこに行ったんでしょうね?」

「ちまちま重箱の隅をつつくような無駄に俺の品格を疑わせようとするような陰湿な質問は受け付けんぞ!上司が大局をかんがみて判断する事にヒラが首を突っ込むんじゃない!そんなだからお前は偉くなれないんだ!」


 不毛な会話はまだ続くけど、どうせこの男が自分の非を認める事なんて無いって事はよく知ってます。他人の手柄は自分の手柄、自分のミスは部下のミス。


「あれこれ言ってもアンタは僕の辞表をもう受理している事実に変わりはないんですよ」

「こ、こんなもの!」


 咄嗟に僕の辞表を破り捨てようとする部長に僕はスマホを突きつける。


「何をする!俺を撮っていいとは一言も言ってないぞ”!」

「死亡診断書も罹病証明書もそうやって有耶無耶にしたんでしょう?構いませんよ、今回は総務に別に郵送しますから」


 この一言がトドメとなりようやく僕はブラックな会社、そしてブラックな上司から離れられる事になったんです。

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