第13話 社畜は小事を忘れない

 その後、さやかお嬢様は有休を申請してさっさと早退しました。早退と言うより普通に欠勤じゃなかろうか、30分ダンジョン話で騒いでいただけですから。こっちはダンジョンと言う単語を聞くたびにあのねた視線を思い出して縮み上がっているって言うのに。お嬢様が年間何日有休を持っているのか、僕は知りません。もしかしたら僕の分も使ってても驚かないですけどね。


 お嬢様が早退したところで任している仕事も無いから大勢に影響はない・・・と言いたいところですが部長とアホウが帰ったと聞いて腑抜けたようにしょぼくれてしまっている。しょぼくれる暇があったらせめて自分の仕事ぐらいこなしてくれませんかね?


雅楽うたい君、彩様はどうしたんだ?お前のセクハラに腹を立てて帰ったんじゃないだろうな!」

「そうっすよ、ウタさんの下ネタに嫌気が差したとかじゃないでしょうね?」


 二人とも僕にセクハラ疑惑を持ってるけどお嬢様はアンタたちの方を嫌っていたみたいですけどね?


 胸とか尻じゃないからってむやみやたらと肩を抱くのは、立派なセクハラ案件ですよ、部長。それにアホウの方がお嬢様の気をくためにしょっちゅう下ネタ連発してたじゃないですか、あれでアホウの方を引いてたって知ってました?惹くと引くじゃ音は同じでも意味は逆なんですからね。


 そしてアンタたちは自分がしてた事を僕がした事にして査問会に掛けましたよね。お嬢様本人の僕にされた事は無いって証言で無罪放免になりましたけど冤罪をかぶせられそうになった事、一生忘れませんからね。いまだにセクハラの決着が付いてない事を知らんぷりしててよくもまぁ僕だけを悪者に出来たものです。


 それからもう一つ、アホウよ。僕をウタさん呼ばわりするのは止めてください。座布団を全部没収する爺さんみたいでヤダ。もうちょっと若いから。ついでに言えば本家はとっくに死んでます。


「とにかく、このままではオレの管理責任が問われちまう。雅楽君は彩様の説得に行ってくれ」


 ・・・どこに。あんな気ままに生きてる野獣の行き先なんて知る訳無いじゃないですか!それにアンタの管理能力なんてとっくの昔に見限られてますよ。

 じゃなけりゃ、部下二人しかいない部長なんて立場になってる訳無いでしょ?


「あいにくと室長の行き先まで把握は出来てないんですが・・・」

「全く使えないヤツだなお前は!酒匂さこう君、君は何か当ては無いのかね」

関原せきはら部長、オレの得意先の堂島のワタライさんが先日〇〇町のグリフォンなんとかって店でゴリラみたいな大女といるのを見かけたって聞きましたよ」

「おおでかした!〇〇町、〇〇町って・・・」


 そりゃマブダチの麗奈さんの事でしょうが、で、その店ってのはグリフォンがどうのって名前だったら探索者かダンジョンの関係に決まってるでしょうよ。そんな店って繁華街じゃないダンジョン近くの寂れたトコにしかないって決まってるじゃないですか。


 実際〇〇町って図書館ダンジョンのすぐ近くですし、そのワタライさんとやらがそんなトコに行ってたって事はダンジョンに自殺しに行きたかったのか探索者気取りでおもちゃの短剣を振り回して刃傷沙汰でも起こしたかったのかどっちなんじゃないですか。


 真っ当な人間が行きそうにないトコなんて・・・お嬢様は大好きですよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る