社畜、決断する

第11話 社畜は仕事を休めない

 ・・・月曜日の朝が来てしまいました。


 それでなくても憂鬱なのに、一晩中夢の中でダンジョンになじられて真面まともに寝てないから体調は最悪だったりします。満員電車の中で寝落ちし掛けて冷や汗を掻いたり、歩きながら貧血起こして座り込んだり、人いきれに酔って道端で嘔吐したり・・・休めるものなら休んでしまいたい・・・のに会社へと足が向いてしまうのはもはや病気だと自分でも思いますよ、ええ。


 ようやく会社に辿たどり着くと早速部長が僕の体調を気遣うでもなく会議の資料についての詰めをして来たり、遊び仲間と仕事をしてきた証拠づくりの片棒を無理やり担わせてきたアホウから二日酔いの薬を渡されそれと引き換えに覚書をかっさらわれてみたりとヒエラルキーの底辺であえぐ我が身を嘆きながら業務をこなしているとようやくもう一人の問題児がやってきました。


 社長様の次女様ことさやかお嬢様の登場であります。一律の事務服が支給されている筈の我が社で全く違う垢ぬけた衣装を身にまとう彼女の指南役が彼女にとっての僕の立ち位置だったりするんですけど、着ている服一つをとっても解るように協調性が無い、TPOをわきまえない、そもそも仕事に対するヤル気が無い。そんな3無主義に揺るぎが無いのが彩クオリティと言うものだの思い知っていますから彼女のいつもと違う様子に気付くのが少し遅れてしまいました。


「おはようございます。室長彩お嬢様、どうかなさいましたか?」

「あ、おはようございますわ。・・・センセ、もしかして」


 形のいい眉をひそめてさやかお嬢様が僕に顔を近づけます。目が悪いから近寄ってくるだけで彼女に他意はありません。その癖見栄っ張りなので人前では眼鏡を掛けようともしません。その事は僕が一番よく知っていますけど部長やらアホウやらが僕がセクハラをしたと騒ぎ立てるのでもう少し離れて欲しいんですけどね?


 そして彼女が僕に向かって『センセ』と話しかけるのは僕が指南役だからであって他意はないんです。これに関してもさやかお嬢様を狙っている身の程知らずのアホウが近すぎると騒ぎ立てますが悔しかったら自分から指南役を立候補すればよかっただけだと思います。


 僕個人とすれば、わがまま放題だと有名だったから誰も立候補せずに貧乏くじが回ってきただけでしたから何も嬉しくはないんです。


 早いトコ婿さん見つけて寿退社をして欲しいんですけどそれを口に出すのはセクハラに当たるとかでNGなのが残念だったりするんです。


 誰得な情報ですが彼女は秘書室長と言う役職を与えられていますが部下はいません。秘書ってのは他に取締役にはそれぞれ一人から3人ほど付いていますけど秘書室の所属ではなくて取締役の直属ですからね。一応次期社長としての修行中らしいのだけど、もし彼女が社長になる日が来るとするならその日は会社の命日だと僕は言いたいです。


「麗奈様って方をご存知ありませんの?」


 何を藪から棒に、女性の名前でしょうけど知り合いに『れいな』なんてしゃれた名前の方はいなかったと思いますけど?

 キョトンとする僕の表情にやや安心した様子でさやかお嬢様は微笑みかける。見た目は美人だからクラっと来るやつはいるかも知れませんが僕は彼女の本性を知っているので微動だにしません。


「そのご様子だと人違いのようでございますわね?

 おかしいとは思ったのですわ、だってセンセがダンジョンにやってくるなんて。

 どう考えても別人ですわよね」


 え?ダンジョン?・・・れいな・・・


「もしかして、『栄光の片翼』の麗奈さん?」

「まさか!ご存知なのですか?わたくしの親友の麗奈様を!」

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