第9話 社畜は神事に詳しくない

 日曜日、改めてダンジョンに潜るべく向かったのは隣の市のはずれにある通称お稲荷ダンジョンです。


 延々と続くまるで伏見の千本鳥居を思わせる参道の鳥居のトンネルを潜った先にはダンジョン入り口が・・・すぐにある訳では無く鳥居と入り口のわずかな隙間にねじ込むように事務所が鎮座していますね。ここは、迷宮氾濫オーバーフローの前科があるダンジョンですから少しでも緩衝出来るように設置したのかそれとも戦果という税金を取りっぱぐれないようにという国家権力の意地汚さの象徴なのか・・・みんな探索者たちは後者だと思ってますけどね。


 聞いた話だと、かつては迷宮の産出物を独占する為に国家権力を排していた神社が今の事務所より奥に拝殿を構えていてダンジョン入り口はその脇にあったんだとか。そして運命のあの日、ダンジョンから溢れた狐たちに飲み込まれ入り口が鳥居の手前までせり出してきたんだとか。ちなみに宮司以下神社関係者は一人もそれ以来見掛けられていないんだそうです。稲荷神社のダンジョンだからなのか、ここのモンスターは狐一択なんだそうです。


 狭い事務所の引き戸を開くと中にいる女性職員が一斉にこちらを見る。どう見ても神社関係者にしか見えないそろいの白狩衣かりぎぬ緋袴ひばかまそして烏帽子えぼし。ぶっちゃけると巫女さんですね。


 実は、ここの経営はかつてあった神社の遺志を継ぐという名目で今でも近隣の7つの神社の共同出資なんだとか。ちなみにその共同経営者に近場の他の稲荷神社は加わってはいないらしいです。狐を食い物にして狐に喰われたと言うんで天罰を恐れて遠慮したんだと。


 事務所で目立つのはお守りや護符のたぐい。交通安全、家内安全、金運上昇、商売繫盛、武運長久。神社が経営だからって少しあざとさを感じますけど食べる為には致し方ないと諦めるしかないんでしょうか。元稲荷神社なのに五穀豊穣が無いのはダンジョンから農産物が持ち出された事が無いからなんですかね。これからは狩りをしなくても入れるんですから中の実りを持ち出す者がいるかも知れないのにね。


 何やかやと勧められるお守りや護符を目を合わさないようにして断りながら入場手続きをしていると、後からやってきたあんちゃんが大声で巫女姿の事務員に話しかけます。


「ねぇ、いつものお守り出してくれよ!アレが無いと安心して潜れないからさ!」


 あんちゃん・・・隅っこで僕の方をちらちら見ている事務のおっさんに似てますね。きっと親子なんですよね。て事はサクラなんですね。売上貢献させたらいくら貰えるんですか。図書館ダンジョンの岸田といいここのサクラ親子といい金儲けの事しか考えて無いのですか?ゲンを担ぐ事は危険と隣り合わせの探索には付き物だって事は理解できますけど強制されるのは違うんじゃないんですか?


 仕事でささくれ立ってる気持ちを落ち着かせる為にも安眠したくてやってきたんですけど・・・帰らせて頂きます。どこかでカスタマーセンターにでも愚痴を垂れたい気分ですが。

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