第8話 社畜は厄介事を回避する

 絶望的な言葉を喰らって立ちすくむ僕に揉み手をしながら職員のおっさんが被せてくる。


「いえ、何も心配はございませんよ。車の運転免許だって取得した時期で対応する車種が変わってるように探索のライセンスも色々と変わってきているんですよ。

 まず今の探索者にはランク分けがございます。下は取り立て若葉の初級から級丁級丙級乙級ときて甲級まで更には世界的なトップクラスの特級までに分けられておりまして、これは25年前に制定されましたものでそれ以前にライセンスを取得された方は暫定丙級となっておりますんで」


 30年ちょっと潜っていない僕にとっては初耳もいいトコなんですけど?


「丙級というのは?」

「それにはまずランク分けを始めた経緯などから説明いたしませんと」

「はぁ、それじゃもう時間が足りないから今日潜る事は出来ないって事ですね」

「いえいえ、それほどお手間はお掛けしませんよ。それこそアプリを端末にインストールして頂ければすぐに済む事でして、ですからライセンスの書き換えの為にもカードを預からせて頂きたく」

「おっさん!こいつらプレミア物のカードを巻き上げようって魂胆が見え見えだから違うダンジョンに出直した方がいいぜ!」

「風間様!【えぇい少しばかり目端が利くのを鼻に掛けやがって邪魔ばっかりすんじゃねぇ!】いえ、こちらの話でして、いつまでもそちらにいらっしゃられますと後の方々にご迷惑をお掛けしているかも知れませんからお早めにご精算の方に進んで頂けますと当方といたしましてもありがたく」


 僕も風間様の意見に同意したいですね。せっかく思い出のダンジョンで探索者を再開しようと思ったのに何のかんのと邪魔してきやがるコイツ、『岸田』だな?こいつのいるダンジョンになんてどんな目に遭わされるか解ったもんじゃないじゃないですか。今日はもう時間も間に合いそうにないから帰ることにしましょう。


 僕はノービスの装備を付けたまま何かと面倒を見てくれた風間様に頭を下げ取り入ろうと下卑た笑いを浮かべて揉み手をする岸田を無視してダンジョン事務所を出ました。


 あぁ、視界の端から恨めし気に睨み付けるダンジョンの眼差しが待っているのか、今夜は寝ずに過ごした方がいいかな?そっと溜息をいたけど誰にも見られなかったかな?


 一息ついてから端末を操作して『だんろぐ』なる口コミサイトを覗いてみると図書館ダンジョンこと正式名戊種異界湿地型1号壕の評価は5段階のうちの1.3。この下には侵入不可の特種異界火口型4号壕と特種異界洞窟型2号壕しかありませんでした。ここの低評価の理由は事務員の人為的を疑わせるレベルの失策の多さと戦果の乏しさ、更には戦果横領を疑う向きも多数見受けられました。

 戊種って事は難易度は一番下、ただ世界で初めて世に出たダンジョンだったという価値しかないって世間から評価されているみたいですね。


 評価は低い方が人ゴミに揉まれずに済むかもとか思った事が裏目に出たみたいですね。仕方ない、出直して明日は三ツ星評価程度の戊種ダンジョンに行く事にしましょう。


 数少ない昔行った事のあるあそこへ。


 ダンジョン様、頼むから夢にはもう出ないでおくれ・・・

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