第6話 社畜は不祥事に巻き込まれる

 所長と呼ばれて奥でふんぞり返っていたおっさんがやってきます。僕とどっこいどっこいのおっさんだからおっさんでいいでしょう。


 おっさんは就業態度のなってない受付嬢から見せられたカードに眼を剝きます。


「!登録番号A000001だと?

 ほ、本物だ!」


 その場に居合わせた若い探索者たちを放り出して騒ぎだすスタッフにはほとほと困ってしまいますが、新たにダンジョンから戻ってきた探索者の団体様がにらみをかすと慌てて大人しくなり僕のもとにようやくカードが戻ってきました。


 シリアルナンバーの入ったプレミアムカードじゃあるまいし何を騒いでるんでしょうね。


「す、すみません!風間様他『栄光の片翼』の皆様、お早いお帰りで!さぞ戦果が御有りなのでしょう、キミ、すぐにカウンターをご用意して、待たせてはいけませんよ!

 雅楽うたい様もお引止めして申し訳ありませんでした。

 そのカードは歴史的にも価値のある物でございますので出来ましたら交換して今のシステムに合うアプリにして頂けませんでしょうか?」


 このカードを証明書代わりに今まで使ってきた身としては急な申し出に戸惑いがあるのだけど、そこになぜかイケメンの風間様とやらが僕の方へとずいと顔を近づけてきます。


「おっさん、ソイツがホントに歴史的価値があるもんならあいつらの言う事聞かねぇ方がいいぜ。あいつらそういうもんを横流しにして私腹を肥やしているんだからよ」

「そんな言い掛かりでございますよ?」

「ここが初めてのダンジョンだからってだけで法外な取材料をふんだくったり業績を捏造してカネ巻き上げたりしてるのを俺らが何も知らないとでも思ってんのか?

 ここに出した戦果も少しずつちょろまかしてんのだって調べは付いてるんだぜ?」


 どうやら話が長引きそうな気配ですね。


 不穏な雰囲気も感じられますし、少し遠巻きにしていたいことろですが目の前で言い争われますととばっちりが来そうでご遠慮申し上げたいところなんですが。


 それに、確かここは7時までが営業だった筈、となれば中に潜れる時間はもうそんなに残ってはいません。今日は諦めるしか無いのでしょうね・・・


「そこのゴブリンのミイラ!何キョロキョロしてんだよ、アンタだよおっさん!」


 風間様と一緒にいるやたらガタイのいいハゲ頭スキンヘッドが僕を睨みつけます。毛の量は僕の方が絶対勝ってるみたいですけど目付きが悪いから相手にしたくないですね、コイツ。


 初対面の相手から睨まれていい気がするヘンタイじゃないんですからね、僕は!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る