社畜、ダンジョンに立つ

第5話 社畜は見事に浮いている

 いよいよ久しぶりのダンジョン・・・もはやダンジョンデビューと言っても仕方がないレベルでかつて初めて踏み込んだ元図書館の前に立ちはだかる僕。そのまま15分ほど動かなかったのは、当時なかったダンジョン受付の人だかりにビビった訳でも人見知りが発動して声が掛けられなかった訳でも貧相な初心者装備しか無くて気後れした訳でも無い・・・無いったら無い!



 すいません、見栄を張ってしまいました。動かなかったではなく動けなかったのが真相です・・・


 思い立って慌てて買った初心者用の装備に身を包み、ようやくの思いで恐る恐る受付にやってくると慣れた雰囲気の若者たちからは冷ややかな視線が・・・


「ダッセェ!見てみろよ、あのおっさんプロテ(プロテクターの事かも?)とか着込んで来てるぜ」

「どう見てもノービス(初心者装備の事を言うらしいです)じゃん。着て来たって事は買ったの、アレ?

 ノービスなんてすぐに使わなくなるんだからレンタルで済ますのが普通じゃね?」

「きっと騙されて店員に買わされたってクチじゃないのかしら。可哀想だから現実を見せてあげた方がいいんじゃないの?」


 ・・・聞こえるように悪口を言わないで欲しいですね。確かに見掛けるのは普通に街で見かけるような服を着た連中ばかりで8割程は20代以下に見えます。僕と同世代なのはカウンター奥に偉そうに座っているお偉いさんくらいのもの。ダンジョン第一世代と言える僕たち50代以上は、そのほとんどが現役をリタイアしてるかあの世に召されているらしいからそれも致し方ないですが。


 無い勇気を振り絞って手足同じ方を出しながらカウンターへ辿たどり着くと裏返った声で受付嬢に話しかけます。今時人間が対応してくれていると言うのはデジタル化が進んでいないのでしょうかそれとも機械を信用していないのでしょうか・・・


「あっ、あのう・・・ダ、ダンジョンに入るのはどうしたらぃぃ・・・」


 機嫌の悪そうな受付嬢の刺すような視線に、僕の声は自然とフェードアウトしてしまいます。


「ちっ、ダンジョン入管が大幅緩和になったからって勘違い野郎が絶えないのよね・・・まずは資格あるんですか?」


 今日から解禁って事で資格も無いのにダンジョンにやってきたのが随分いたんでしょうけど・・・怖い。

 泣きそうになりながら僕は財布から紙製の古いカードを引っ張り出す。


「えっ?紙?

 ・・・紙のライセンスなんて教習で見本見せられた事しか無いのに!すいません失礼します!

 所長!こっこれホンモノでしょうか!!」


 大声出さないで下さいよ、恥ずかしいじゃないですか。

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