第3話 社畜は万事に慎重すぎる
今の会社に入って僕は猛烈に後悔しましたね。
名目上は週休二日でも対応に追われて土曜は全て出社、日曜も半分は埋まる、仕事上がりも毎日が終電が捕まれば御の字の癖して残業は全てサービス。その時の会社の言い分は、不手際や仕事が遅いヤツに払う無駄なゼニは無いんですと。
その上に親が死のうが病気で寝込もうが忌引きも有休も使わせずに給料からガンガン削るんです。
その分管理職には残業代はバンバン付くは、ほぼ土曜出勤はあり得ないは、有休消化の催促は来るは、社員旅行には幹部とコネ社員だけで会社持ちで海外に行くは。
一方こっちは日帰り旅行、それも全額負担ときたもんです。
そもそも幹部になれるのは高学歴なのか社長か取引先かのコネがあるヤツだけですし、Fラン大卒の僕にそんないい目に遭う可能性なんて端っからありませんでした。さらには激務で脱落していく人間が多すぎます。
実際同期で入った連中で2年経った時点で残っていたのは250人中僕を含めて二人、もう一人は社長の一族の経理部長の甥でした。
そいつは人事部副部長まで出世した後、ホストに入れ込んで貢ぎまくり稼ぎが足りない分の使い込みがバレて部長(出世して当時常務)もろとも3年前に追い出されましたっけ。いやぁホストって男でもイケるんですね。それにしても例え社長の一族でもトカゲの尻尾切りに会う薄情な会社ですよ。僕みたいな一般社畜の扱いなんて想像が出来るじゃありませんか。
でもそんな僕が会社を辞められないのは・・・何故でしょう?
会社を支えている自負なのか一歩前に踏み出す度胸が無いせいか
でも今日は、今日こそは、仕事が終わればダンジョンに入るんです。
さぁ、
僕としては、とにかく潜るだけで気が変になるような事が起きなきゃいいんですけどね。
受付辺りで会社に
もし僕が声を掛けたらなぜ仕事に出てきてないかを問い
山のようにあった書類がようやく片付き、PCの電源を落としながら
あれだけダンジョンを避けてたのに僕が急に探索を思い立ったのは何故だと思います?
ダンジョンがこの世に現れてざっと40年、今狩猟の時代は終わった。これからは収穫の時代だ!なんてね。そんな風に自分を騙さなきゃやってられないとか・・・思ってても言わないでくださいね?口にしたら負けじゃないですか?
収穫の時代って言ったのは様々なダンジョンで生成されるのはモンスターだけじゃないからなんです。希少な鉱物であったり貴重な果実であったり謎のオーブであったり。海外じゃ潜って捕れた物だけで億万長者になったとかざらに聞きますから。
それらは、この国じゃこれまで暇な探索者が狩りのついでに採取してたり付き添うポーターが個人的に摘み取ったり強欲な者が無許可で強奪したりしていました。でも拾得目的だけでダンジョンに入る事は禁じられててそれ以外の方法でダンジョンから持ち出す事は出来なかったんです。そのおかげかこの国の国際競争力とやらは、今やガタ落ちなんだとさ。
そしてようやく今日解禁で、誰でも(もちろん探索者の資格を持っていなければなりませんが)ダンジョンから持ち出せるようになったんです。
『国力の再浮上には探索者の更なる協力が無いと』などとどこぞの世襲議員様がほざいていましたけどいつも寝てるんだから自分でも取りに行けばいいじゃない・・・でもそのおかげで潜るきっかけはもらえたんですよね。
『落穂拾い』とか悪口を言われてもハードルが下がった事はいい事ですよ。
もし昔より単価が上がってたら脱サラして専業になってもいいんですけどね。
さてどこがいいでしょうか。評判悪いけど僕の地元の図書館ダンジョンとか学生時代通わされた隣町のトイレダンジョンとかお稲荷ダンジョンとか、あるいはこの辺で一番流行っている隣県の球場ダンジョンとか。悩むとまた毛が抜けるんであみだでも作っちゃいましょうかね?
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