第2話 社畜は荒事に向いていない

 探索者第一号である僕は・・・ダンジョンでの荒事には向いていませんでした。


 ダンジョンでスライムを踏み抜いた後慌てて外に出た僕は、それからしばらくダンジョンに寄り付く事はありませんでした。


 それはダンジョンに不用意に近づいて犠牲になる事件が多発するようになるよりも前の事、世に言うダンジョン事変の起こる前の話だったりするんです。


 あのスライムを踏み潰した時の感触がよみがえって思春期の僕にはえられませんでしたからね。


 ダンジョン事変って言うのは各地に現れたダンジョンに安全を確認する為に投入された警察や自衛隊が戻ってこない事が多発した事が発端で始まってしまったんです。


 そうなる前に潜って生還できた一般人(お察しの通り後の探索者)から内部を映した動画がSNSに投稿されると政府は帰ってこない警官や自衛官の事を隠す事がとうとう出来なくなってしまいました。


 ダンジョン内部は多層構造になっていてそこに存在するのは人間に害意しか持っていないモンスターが蔓延はびこっている事やそれに銃器がほとんど通用しない事、それが原因で軒並み警官や自衛官が命を落としてしまっていた事、そして生き延びた者の得物は警棒やナイフみたいな原始的な武器ばかりだった事。


 時の政府は、公務員の安全をかんがみたのか臭い物に蓋をしたかったのか軒並みダンジョンへの潜入は禁止(僕自身はビビッてて入ろうなんて思わなかったので関係なかったですけどね)、まだ残っていた警察やら自衛隊やらを総動員して入り口を固めて完全封鎖で事態の収拾を図ろうとしたんですけど、その3年後に山中に人知れず出来てたダンジョンから中のモンスターが溢れ出て一般社会を脅かす迷宮氾濫オーバーフローが発生、続いてそれに連動するかのように管理していた筈のダンジョン群からも迷宮氾濫オーバーフローが発生して国家権力はその鎮圧に対応できずこの世は生き地獄と化してしまったんです。


 そこに登場したのが、かつて規制される前に勝手にダンジョンに潜り込んでモンスターたちを倒した事がある探索者たちだった訳です。


 近代兵器が通用しないモンスターを相手にそれこそバットや包丁を振り回して駆逐していく姿に、一般市民は喝采を上げマスゴミは新たな英雄とばかりに持ち上げて最終的には当時の政府が崩壊したんです。


 無血クーデターと言うよりもモンスターに一揆を起こされてお偉いさんが逃げ出したって事なのかも知れません。


 そしてその後に新しく立ち上がった捜索者を中心とした政府は、新たに捜索者を頂点に据えた国家を構築、通称ダンジョン本庁と呼ばれる組織を立ち上げて国家ぐるみでダンジョン攻略に乗り出したんです。


 丁度その頃大学生になっていた僕は、両親が迷宮氾濫に巻き込まれて死んでしまった事が発端となってお金が必要となり恐る恐るダンジョンに潜る様になるんです。


 ただ、運動神経の鈍い僕は思うようにモンスターを狩る事も出来ずポーターのような雑用ばかりを押し付けられるようになりしばらくして捜索者も引退する事にしたんです。


 とことんダンジョンとは相性が悪いと思いますよ。


 でもそんな前歴を隠して入った会社が・・・とんでもなくブラックだったんですけどね。

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