第9話
三人を会わせると喧嘩が始まると判断され、私はひとりずつと会うことになった。
初めからそうしろよ!と言ったが、そこは無視された。スルースキルはどの世界でも重宝される。
まずはデクステラ王国、アンネマリー王女。
用意された場所は二間続きの客間。
『お気に召されればそのまま隣の部屋に行って頂いても宜しいのですよ?』と下卑た笑みを浮かべる宰相の顔が忘れられない。
そのことは承知の上なのだろうか……アンネマリーのドレスは胸がボイ―ンと出て、両足がスラーっと出た見るからに男受けしそうなものだ。
(あ~、キャバクラで見たわね。そんなドレス)
背中もぱっかり空いている。
髪もグイっと上にあげて後れ毛をわざと残してあるのはセクシーに見せるため?目元、唇に色気があるな~とは思うけど、そこは完全女性目線だ。
普通の男性であれば生唾モノな姿に、生まれてからずっと機能しない相棒は、やはり動く気配がない。
だからにっこり笑って見せた。
「どうぞおかけください。今日はゆっくりとアンネマリー様を知りたいと思っています」
「そういって下さって光栄ですわ。ルーラント様にはあたくしのすべてを知っていただきたいですわ」
そう言ってわざと前かがみになって谷間を見せて~からの、スリットの入ったドレスをわざとふわりと浮かしてなまめかしい太もも見せて~からの、妖艶な笑み!が決まった。
(自分で100点満点だと思っているでしょ?だけどごめんね?)
やはり息子の反応はない。さらに心はスンって冷めた。それらって遊んでる女が男にやる、媚びうるポーズなんだよね。
つまり女受けは悪い。
「アンネマリー嬢の趣味はお菓子作りだとか?」
見合いと言う名の強制婚活パーティーだ。相手のデータはすべて頭に入っている。
アンネマリーは見た目の派手さとは裏腹にお菓子作りが趣味だと言う。
それすらギャップ萌えさせる手管のひとつか?と思ってしまう私は、疑り深い。
「ええ、そうですわ。特にタルト作りが得意ですわ」
「タルトは、すこし食べ辛いので私は苦手ですね」
じつはタルトは好物だけどこう言っておこう。分かるかな?遠回しにあなたが苦手だと言っているんだよ?
「あら……ではあたくしが食べやすいタルトを作りますわ。食べ方も教えてあげましてよ?」
(え~、これって遠回しに、自分を食べて良いって言ってない?貞操観念はどこにあるの?)
「まさかご令嬢に教わるわけにはいきませんよ」
はははっと乾いた笑いを見せよう。これで逃げるのが一番だ。
「食べ方はお気になさらず、味わって召し上がってくださいね。きっとご期待に応えますわ」
ぺろりと舌を出して唇に添わせる……って、え~、なんだそれ!めちゃくちゃ誘われてる!いや、無理だよ!相棒がどんびきしてる!
(怖いから話を変えよう!)
「あなたが思う善き国とはどのような国ですか?」
無難に政治の話を振っておこう。だってエロ話に突入しそうだ。
「あたくしは自国の名前を誇りと共に名乗れる国民がいる国こそ、善き国だと考えます」
思ったよりも良い答えだ。これだと問題ないな。
「自国を愛する国民が多いと言うことですか?」
「いいえ、愛国精神は時に狂気を産みます。この国に生まれて良かったと思えるのが善き国ではないでしょうか」
「それは然り。ではそのために、我々為政者は何をすべきでしょうか?」
「自分のやるべきことを見誤らないこと、やるべきことをやることですわ。例えば今のルーラント様にはなすべきことがあるでしょう?」
アンネマリーの視線がちらりともうひとつの部屋へ……って、あそこはベッドがある部屋!いやいや勘弁してください!あなた性欲強すぎ!まるで私の夫みたいって――あ!
こいつが夫だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます