第8話

三人の争いは時間がきたことで解散することになった。


(誰も私を見ていなかったわね)


それについては呆れたが、所詮政略結婚。夢見る気持ちはない。


(問題は誰が誰か分からなかったことよね?)


私は自室でメモを取る。


浮気した殺してやりたいほど憎んでいる夫は、温和だった。彼が怒ったところを見たことはない。

疲れたと言って玄関にカバンを放り出すと、まずは私をお姫様抱っこで運んでくれて世話をした後にカバンを回収してくれた。

毎朝お弁当も作ってくれた。なんなら夕飯も、洗濯も、掃除も家事は全部してくれていた。ずぼらな私の世話を献身的にしていた。


(そんな優しい彼が言いあうなんてありえないわ)


私と違って前世の記憶はないのだろうか。だったら国の為に相手を貶めるのも分かる。


(でも前世の記憶がなかったとしても、夫とやり直す気はないわ)


今でも思い出すふたりの浮気現場。私のお気に入りのソファの上で激しく愛し合うふたり。


(私を上に乗せたことなかったのに……)


愉悦に満ちた顔で夫に馬乗りのしていた部下の顔を思い出すと、悲しくて泣きたくなってしまう。怒りを通り越すと悲しみがやってくるようだ。


部下の事は目にかけていた。一生懸命にメモを取る姿をいじらしく思い、仕事の後やプライベートでも何度も食事に行った。

今どきの子だったのでスキンシップが多く、距離感が近いのには困ったけれど、それでもかわいい部下だ。腕を組むのは許していた。私も感化され、良く頭をなでていた。すると子猫のようにかわいい声をだしていた。

そんなかわいがった部下の裏切りを許す気は毛頭ない。

だから彼女も選びたくない。


そして小動物の様な彼女は争いを嫌った。いつだか飲み屋で客同士の喧嘩が始まった際に、私の背中で小動物の様にぶるぶると震えていた。その彼女があんな言い合いを?ありえない。


(しかももうひとりは何なの?絶対知っている何かなのに、全然分からない!)


結局、私のメモは白紙のままだ。

今日はふて寝しよう。


疲れた。

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