第3話
ユウオについて、俺はひとつ疑っていることがある。「疑う」と言うとあまりよくないから、「推測している」くらいにしようか。
あいつは、俺と同じように異世界から転移してきた人間じゃないか――というのがそれだ。
転移にはいくつか種類があって、俺みたいに「転生」というタイプと「転移」「召喚」辺りが定番だ。
俺はこの年になって前世の記憶を思い出したので、どちらの知識も人並みに持っている。だがユウオはこの世界の常識がちょくちょく抜け落ちているような発言をするのだ。
魔杖に手入れが必要であることを知らないのも、「まだ魔力詰まりが発生するほど長く使っていない」という可能性がある。となると、こちらへやってきて一年もしないとか、下手をすればやってきたばかりかもしれない。
確証はない。ただぼんやりした性格であるだけなのかも。だが、そう思っていたからこそ俺は案じたのだ。ユウオが「追放される主人公」であることを。
しかし、その考えにも少し自信が持てなくなってきた。と言うのも、この世界では馴染みのない単語をいくつか洩らしてみせても、あいつは全く反応しないからだ。それとも「主人公」ならちょっとした動揺くらいうまく隠してみせるのだろうか。
史録堂というのは、大きな街にちょくちょく見られる施設だ。歴史的文書はもちろんのこと、町の特産品の移り変わりだとか出身者の芸術作品だとか、そうしたものを飾っている。先ほどユウオを試すためもあって口にしたように「博物館」と言うのがいちばん近いだろう。
「あら、ジャレットにユウオ。珍しいわね、こんなところで」
「レナ」
その入り口で行き合ったのは、パーティーの癒やし手たる少女だった。
「ひとりか? アーサーは?」
「今日は休むから好きにしてろ、ですって。あなたたちが勝手に出かけちゃうから拗ねたんじゃないの?」
「まさか」
俺は笑った。もちろんアーサーは俺がユウオに半ばつきっきりになることを認めているし、レナもそこは理解しているはずだ。この発言はユウオへのフォローだろう。
「俺たちは、ユウオの魔杖のことで史録堂の学者に話を聞きにきたんだけど、レナは?」
「杖に詳しい学者って私の叔父さんのことじゃないかしら」
「へ?」
「ここに私の叔父さんが勤めてるの。確か杖のこともよく知ってたはず」
「まじか。それなら話は早いや。ユウオに紹介してやってよ」
「ぼくは杖だけ見せてもらえればいいんです」
「あ? そうか、ユウオは別の杖が見たいんだったな。でもそれが何の役に」
「別の杖って?」
「ああ、こいつの魔杖が歴史的価値があるかもしれないってわかったんだけど」
「先に行きますね」
「は? おい!」
あのはっきりしないユウオが、いまだかつてなく積極的に行動している。それはおそらくいいことなんだろうとは思うが、説明をするまで待ってくれてもいいだろうに!
「勝手に入って大丈夫かね。ああ、レナはきっとここのマナーとかに詳しいよな? ユウオのフォローしてやってくれないか」
「それがよさそうね」
伝えられてない事情を聞き返してくることなく、レナはユウオを追ってくれた。説明はあとでもいいだろう。その間に俺は、史録堂の人間を探して話を聞くべく、辺りを見回す。
「すみません、ちょっといいですか――」
たまたまそこにいたのはさすがにレナの叔父さんではなかったが、展示品の基本的なことは知っていた。確かにオヤジの話通り、ほかでもないヴォルド本人が作った杖があるそうだ。ちょうど展示がはじまったばかりなんだとか。
まあまあ広い建物のどこにそれがあるかを教わって、俺はユウオとレナを探しながらそちらへ向かった。一部屋一部屋は小さいし、人も少ない。ふたりを見落とすことはないだろう。俺は見るともなしに展示品を見ながら部屋から部屋へと移った。
そのときだ。
「何をするの!? やめなさい!」
レナの凜とした声が少し先から響いてきた。俺はぎくりとする。穏やかな彼女が声を張るのは、実際かなりヤバいときだからだ。
博物館のような場所では走るべきではない、という前世のマナーが一瞬だけ脳裏を掠めたが、そんな場合ではなさそうだ。俺は自分の魔杖を握って声の方へと駆けた。
「どうした!?」
隣の隣の部屋にたどり着いたとき、俺は叫んで、それからぎょっとした。
「おま……な、何してんだよ!?」
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