第6話 絶壁とは失礼な!成長過程なんですよ
「いつの間にか最上級生になってしまった」
「でもあんたちっとも成長してないね」
僕はさっと胸元を両手でクロスした
「セクハラは犯罪ですよ!」
「そうなんだ。ふふん」
握り潰したい、その胸部装甲
*
「そう言えば最近彼氏役の出番少なくなってませんか?」
歩合制じゃないけど気になります。
「まさか解雇ですか、ぼく捨てられるの?」
半分冗談でいったけど、何故か彼女は悲しい顔を見せた。
変ですね、僕の渾身のギャグも錆びついたのでしょうか
「あんたはそのままでいてよ」
はい、僕はいつだってそこにいます
*
「暇ですね」
バスケも引退した今、受験勉強しかやることがありません。目指せ国立です
私立行くお金はないので落ちたら就職です。
「こんな僕に何が出来るのでしょう」
心配しててもお腹は空きます。
「昨夜食べなかったケーキを食べましょう」
彼女が昔上手って褒めてくれたケーキの腕前は健在です。
「そうだ、受験に失敗してもお菓子職人が残ってた。
どこか小さなお店なら僕の腕前でも雇ってくれるかもしれません。
もしものために明日からお店回りを始めましょう。
彼女が食べなかった「ケーキはそのまま冷蔵庫にしまいましょう。
いつか食べる日が来るといいな
でもそのときは作り直さないとね
*
「ねえ、あたしの誕生日覚えてる?」
僕は飲み込んだケーキを喉につまらせながら答えます。
「12月12日ですね。覚えやすくて助かります」
「最近あまり時間取れなかったけど、その日は一日開けておくから」
それはなんとも贅沢なお誘い
「わかりました、素敵なお店をご用意してますね」
「ありがとう」
「いえいえこれもあなたの幸せのため」
ぼくはいつでも働きますよ
*
「本当にごめんなさい」
彼女の悲鳴のような謝罪
悲しませているのは僕の方なのに
「いいんですよ、家族が第一です! 親孝行と思って楽しんで下さい。
僕の分まで楽しんで下さい
やっぱり家族には叶いませんね。僕が家族に慣れたら少しは勝負になれたんでしょうか。
とりあえずレストランの人に悪いのでここは食事を出してもらいましょう。
誰かこんな時来てくれる友達でも作っておけばよかったです。
一瞬後輩でも呼ぼうかと思いましたか彼女に悪いので辞めておきましょう。
これは彼女のお誕生日のお祝いなんだから。
「もう食べられない」
悪夢に出てきそうです。
少食な僕にこれは犯罪ですよ
誰が頼んだんですかこんなに
「二人なら大丈夫と思ったんですよ」
塩味がついたスープは大変美味でした。
無味無臭のお水だって僕にかかれば塩水さ
はあ。会いたいですね。
*
それから彼女に会ったのは三日後だった。
「どうしたのそんなに休んで」
「ちょっとお腹の調子が大変なんです」
「そう、気をつけなさいよ」
「はい、気をつけます」
*
「その指輪綺麗ですね」
ぼくはうっかり地雷を踏んでしまった。
彼女はばつが悪そうな顔をしてそれを右手で隠した。
「なかなかの高級品と見ました。もしかして婚約指輪ですね」
彼女は目を見開いて「そうよ」と一言だけ言った。
「えーっと。おめでとうございます?」
ぼくがそう言っても彼女は返事をしてくれなかった。
いわゆるマリッジブルーなのかもしれません。
「今日から勉強は1人でするから」
「そうですか。了解です」
彼女も独り立ちの時が近づいているのです。頑張って応援しなくては。
1人図書館で毎日勉強をします。
家で勉強ができないので、こうするしか無いのです。
「彼女と二人ならもっと楽しんだけどな」
でもそれは贅沢というものです。彼女は僕なんかが触れてはいけないお姫様なのです、たぶん。
*
独りで寝るのも最近寂しくなくなってきました。
ぼくだって頑張れば出来る子なんですよ。頑張るのが嫌いなだけなんです。
だんだん寒い季節になってきます。こんな時誰かが側にいて欲しいと思うのはとても贅沢な悩みです。今日もお布団が温かい
お給料日の後なので少しだけ贅沢して暖房を入れます。
これで心も暖かくなる事間違いなしです。はい決定です。
*
「クリスマスこそ一緒にいたい」
お昼のお弁当を食べていたら突然そんな事を言われました。
驚いて鮭が喉にひかかったじゃないですか。
もちろんそんな文句も言えません。
「はい!よろこんで!」
なんだろな。こんなに優しいと変な勘ぐりしたくなるんだよね
まさかサンタのバイトでも斡旋してくれたりするのでしょうか
「ケーキ売りよりは儲かりそうですね」
でもケーキはバイト先で買う予定なんだ♪
僕が腕によりをかけデコレーションするんだから。
「おっと、その前に」
彼女から教わった教わった儀式
『私は可愛い。誰よりも輝いている。明日も可愛くなれるように頑張る!』
鏡を見て笑顔の練習。
でもこれはいけません。よく街中でナンパされるようになりましたよ。
「こんな絶壁が好きなもの好きもいたんですね」
あ、そう言えばいたわ
絶壁フリークがひとり
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