第6話 仮初の幸福
その
自分が
「そりゃあ、軍隊長なんて身分のあんたには
「大切なものを護るためなら、
「そんなのは被害者の負け惜しみだ。それとも、
だがカリムは夢中で
ルーシーがジェルメナ孤児院の監督者であるならば、他の孤児らと隔離されるように静養を続けるリオの存在を知っている可能性があった。
名指しせずとも「大切なもの」を特定されてしまいそうな気がして、カリムは
——今更何を言ったところで、同情も理解もされるとは思えない。やってはいけないことだと
——俺の人生は…今日で終わるんだ。
胸の内に充満する恥ずかしさは情けなさへと転じ、
隣に並ぶ女隊長は事情聴取と言っておきながら具体的に探りを入れるわけでもなく、叱りつけるでもなかったため、
だが軍人として、孤児院の監督者として
——もう、誰にも会わせる顔がない。何もかもが嫌だ。でも最後に万に一つだけ、望みを聞いてくれるのだとしたら…。
「お願いします…孤児院の子供達には、俺が何をしたか明かさないでください…。」
カリムが最も恐れていたことは、リオに積み重ねた
もう二度と
そしてその結論は結局、ルーシーが唱えた持論を受け入れることに
当のルーシーもその変化を察したように、正面を向いたまま淡々とカリムに言い聞かせた。
「おまえが執心する大切な存在とやらにとってもまた、おまえ自身が大切な存在になっているんだ。だから身の
ルーシーは金貨銀貨の詰まった
「人が
「出過ぎた
その提言はカリムが
結局はまざまざと現実を突き付けられたに過ぎなかったが、一方でリオに対して行き過ぎた温情を傾けていたことも
——リオを失いたくないという想いが空回りして、いつの間にかリオの
——いや、潰れても平気だと自分を軽んじていたんだ。どうして俺は、こんなにも馬鹿になっていたんだろう。
「だが
少し間をおいてからルーシーが
それまでの冷淡な説教とは一転した、励ますような意外な言葉に驚きを隠せなかった。
だが
そして彼女が
「いつまで
ルーシーが孤児院まで付いて来ようとしていることに少し遅れて気付いたカリムは、言われるが
一連の窃盗についてこの場で処分が下され、二度と孤児院に戻ることはないと思い込んでいたために一瞬拍子抜けしたものの、結局はルーシーによって孤児院に突き返される形になるのだと察するとまた
励まされたことで
ジェルメナ孤児院までの道中、カリムはルーシーの歩調に追いつくために半分小走りの状態を続けていた。当然に会話など何一つなく、ルーシーも一切こちらを振り返ることはなかった。
孤児院に到着する頃には13時近くになっており、玄関ではステラが落ち着きのない様子でカリムを出迎えた。
そのステラにリオの元へ向かうよう促されたので、カリムはルーシーに向かって一礼すると、今度こそ逃げ
ステラがカリムの抱えた紙袋を見て、自腹ではなくルーシーに買って
ルーシーはその場で訂正しなかったが、自分が玄関から去った後にステラへ
ルーシーに対しては
自室ではリオがベッドの中で半身を起こしたまま、窓から差す穏やかな陽光に照らされて
昼食後も相まって眠たいはずだが、自分が戻るまで
だがリオが待ち
「おかえり、お姉ちゃん。何か買えたの?」
「…ああ、ただいま。
カリムは仕方なく答えながら、
その小さくも
「
「…いいよ。」
その
リオが夢中で
「そんなに慌てて食べなくても大丈夫だよ。このことはステラ先生も知ってるし、隠す必要はないからさ。」
「そうなんだ。ありがとう、お姉ちゃん。」
満面の笑みで
目の前の笑顔は見知らぬ
——こんな気持ちに、ずっと気付けなかったなんて。これじゃあリオと死に別れるよりも、よっぽど未練が残るじゃないか。
「ねぇ、カリム…さっきの隊長さんが落とし物を拾ってくれてたみたいなんだけど、これは
その終末の宣告は、いつの間にか入室し背後に立っていたステラによって切り出された。
カリムは椅子に座ったまま恐る恐る振り返ると、ステラの右手からは見慣れた
元より
だが結局追及が始まっていることに変わりはなく、リオが居る手前、その話題が変に発展することを
「…知らない。俺のじゃない。」
「そう、
ステラの口振りからは、大まかな事情をルーシーから聞いて把握した上で想定内の反応だったのではないかとカリムは
罪悪感の矛先はリオだけでなく、ステラにも向けなければならないことを改めて思い知らされていた。
この先に待つであろう計り知れない罰を受け入れる準備をするため、小さく
「お姉ちゃん、もっと食べたい…。」
だがそのカリムの服の裾を、リンゴの果汁に
リオにしては珍しい
「ごめんなリオ、今日はもうそれしかないんだ。…って、もう1個食べ切ったのか?」
昼食を済ませたばかりだというのに、小さいとはいえ果実を丸ごと食べ尽くしてしまうリオに対して、カリムは驚きを隠せず
そして
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