第5話 魔が差す
穏やかな陽気の
だが左目を前髪で隠すその少年の表情は不満そのもので、
——他に軍人は店を出していないのか?
カリムは孤児院内の清掃が一段落するや
だが
残りの品は衣類や雑貨類が
カリムは店番の軍人と特段会話を交わすことなく、
あわよくば他にも軍人が店を開いていることを
だがスラム街はいつもと変わらず空気が
食糧を抱えるカリムの方がかえって窃盗に狙われそうな気がして、自然と背筋が縮こまっていた。
それでも諦めきれず曲がろうとした小汚い住宅の角の先に、不意に
そこには昨晩カリムが
カリムは窃盗の際に追っ手の人数が多かったり
秩序の
他方で
——いっそのこと、邪魔をして
——この辺は
カリムは軍人の出店で期待した収穫が得られなかった不満をぶつけるように、女軍人のポーチに狙いを定めていた。
そして黒いフードを深く
不注意で衝突したように見せかけて、その手荷物への接触で
今回も目算通りの大きさの物体を感知し、
だがその手首は
カリムは想像を絶する反撃の速さと無理矢理腕を引かれた痛みに驚き、小さく悲鳴を
「この私から盗みを働こうとは、いい度胸じゃないか。」
右側から女軍人の低く
「くそっ……放せよ!!」
カリムが
他方でカリムの視界は空と地面が一瞬でひっくり返っており、背中が一気に重みを生み出した。
自分が女軍人の猛烈な腕力によって放り投げられていることに気付いた頃には、
無意識に受け身を取ることが
逆さまの姿勢で広々とした青空を
間もなくしてその青い視界の上から、女軍人がまじまじと
だがその眼鏡越しに見下される視線を
——嘘だろ……俺と同じ、
カリムは親子で瞳の色が似ることを知っていたが、基本的に誰もが黒か茶系統の色を
だがたった今カリムを放り投げた女軍人は堂々と両目を
他方で異様に広い視界に違和感を察すると、カリムは慌てて左目を左手で
放り投げられ逆さまに
「おい、これは大事な物なんじゃないのか?」
その言葉に釣られてカリムが振り返ると、女軍人が薄汚れた紙袋を掲げて見せていた。
そしてそれを取り返そうと
「おっと。それとも本当に大事な物はこっちの方か?」
その寸前、女軍人はもう片方の手に握っていた
カリムはそれが持ち運んでいた自分の財布であると
貯金を全額引き出していたわけではなかったが、期待外れの買い物しか
——まずい。あれだけの
——どうする? どうやって取り返す? 不意打ちも効かない相手に、正面からやり合えるとは思えない。逃げ出したところで、
カリムが
「ならば選びたまえよ、少年。どちらかは確実に返してやるが、もう片方は没収だ。それで私に
その女軍人は、ルーシー・ドランジアと名乗った。グリセーオを訪問していた国土開発維持部隊の隊長だと知ると、カリムは
国土開発維持部隊はジェルメナ孤児院を
カリムがジェルメナ孤児院に属していることは、首から下げ衣服の内に仕舞っていた銀製の名札で
知らなかったとはいえ孤児院の監督者に襲い掛かったことで、その異常な所持金額について真っ先に問い詰められる
「仮に現在の賃金相場で
カリムはルーシーと共に
どれだけ騒ぎ立てようがスラム街の一帯は関心を寄せることはなく、
カリムは物理的に拘束されているわけではなかったが、
「…そんなの、覚えてるわけない。」
「じゃあ質問を変えよう。おまえは何のために窃盗を重ねていたんだ?」
「…金持ちになりたいって、誰もが思うことじゃないのか。」
「確かに
カリムはルーシーが提示した条件に従い、薄汚れた紙袋を返してもらっていた。引き換えに貯蓄額の半分以上を失うことになったが、リオに残念がる顔を作らせないためにその選択を
だがその本心をルーシーに見透かされ、あからさまに小馬鹿にされていることを察すると、肯定を口にすることすら恥ずかしく
一方のルーシーは口を
「昨晩この場所でとある交易商の従者らが負傷してね…中には頭から出血する大怪我を負った者もいたそうだ。窃盗を働いた犯人をここまで追い詰めたものの、妙に手の込んだ罠で返り討ちに
「あまりに悪質だったとのことで交易商から
ルーシーが背後の
昨晩の騒動も自分が犯人であると
だが予想に反してルーシーは、
「まったく、ここまでして
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