第2話 2本の鍵
ソンノム霊園の正門付近には1台の乗用車が待機しており、その
「俺達が来るまでの間、誰か霊園に立ち入ったか?」
「……いいえ、誰も?」
タルロがやや首を
カリムも慌てて乗用車の反対側へと回り込み、古びた杖を抱えて乗り込みジオラスと少し間隔を開けて座った。
タルロもそれ以降は
「
「…ああ、頼む。」
カリムは結局自分がどこに案内されるのか
それでも車内には弾むようなエンジン音が絶えず響いており、かえって
今は
とはいえ行先も目的も判然としないまま続く密室の旅程は、意識を集中していなければ、息詰まるか酔うかして
窓の外に映る街灯や住宅が
するとジオラスが、
「その大きい方は、住宅の鍵だ。グラティア州の辺境で我がピオニー家が建築し、ルーシー・ドランジアが所有していた別荘のな。」
それを聞いたカリムは、
「そんな…恐縮です。けじめを付けろと
「その話以前に、あいつから正式な所有権譲渡の委任があったんだ。だが書面上はまさかの白紙委任だ。あいつは俺に口約束で、譲渡の優先順位の一番上におまえを立てるよう依頼してきたんだ。…それがおまえに対する
ジオラスは立て続けに運転席の後部に仕舞ってあった大きな封書を引き出し、
「別荘とはいえ、あいつは
「だから厳密には、住宅以前にその保管財産一式の処遇をおまえに委ねているのだと捉えて
今後の予定を淡々と決定するジオラスに対し、カリムは抑圧されるように小さく承諾する他なかった。
仮に住宅を譲り受けるにしても、今日
それ
——
——でも一方で
——『
——俺みたいな悪魔への
「答えを
暗い車内で思い詰めていたカリムは、再びジオラスから
不覚にも鍵束が
「この小さいほうの鍵は、何なんでしょうか。」
「さぁな。住宅内の鍵ではないから、どこかにある金庫か何かに使うためではないのか。」
案の
「…議長が姿を消して、明日から議会はどうなるんでしょうか。」
「ルーシー・ドランジアは体調不良に
「…議長は初めからそのつもりで、僕と縁を切ったということなんでしょうか。」
「当時のあいつは
その後は結局
本心ではジオラスに尋ねたいことが
あらゆる犠牲を払って完成させたはずの『厄災の無い世界』が早々に
そしてソンノム霊園から乗用車を走らせること2時間足らずで、目的地である別荘に到着した。
近隣集落からやや離れてひっそり
カリムが玄関前に降車すると、ジオラスは車内から一言
カリムには背の高い雑草を
さっさと玄関口を開けようと手渡された鍵を持ち直そうとして、胸元では大きな封筒と共に古びた杖を抱え込んだままであることに今になって気付いた。
——ディヴィルガム…一応は貴重なものだから、
大きな鍵は
居間に進むと見るからにお
とはいえ窓を開けて換気しようものなら羽虫が
与えられた別荘は身寄りのない青年が1人で住むには
他方で沈み込むようなソファの心地良さに蓄積していた疲労が一気に
明らかに
そしてカリムの
——あいつは、目を覚ましたかな。あいつも俺みたいに、部隊を足切りされるのかな。…いや、あんなこと言っておいて、何もかも終わったのにもう一度会う理由なんてあるのかな。
そのとき、遠くで雷鳴が
音自体はかなり遠く、窓辺に張り付いてもその方角を把握
——まさか、これもまた悪魔の
カリムは目元を
だがその
カリムは小さい方の鍵を差し込める穴を探して、重い脚を動かし始めた。
もしそれがジオラスの
だが中身は期待とは裏腹に
カリムは小さく溜息を付いたが、手に取ったその封書の宛名を見て絶句した。
『愛するルーシーへ 義兄シェパーズより』
それは、カリムにとっては顔も声も覚えていない亡き実父が
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