第9章 紕う風信子
第1話 訣別
ラ・クリマス大陸西端に位置するソンノム霊園は、すっかり日が沈んだことで東から冷たい風が
だが生きた人間である青年は耳を傾ける余地さえなかったのか、不自然に転がっている小さな
青年が『
部隊を主導してきたラ・クリマス共和国首相ルーシー・ドランジアは、厄災の無い世界を実現するために『封印』した悪魔から膨大な魔力を抽出し、姿を
5年前から青年が
だがその空っぽには新たに濁った何かが湧き上がって
突然の
夜が深まるに連れ身体に染みる冷たい風が、余計に思考を
「いつまでそこに居座っているつもりだ、カリム。」
カリムと呼ばれた青年は、聞き覚えのある重く響くような声音に名指しされて我に返り、
目の前には
その圧倒する
「ジオラス・ピオニー
カリムは男の名を
だがジオラスはその反応を何ら
「タルロ、この
ジオラスはそのまま広場を横切って霊園の奥へと歩みを進め、タルロと呼ばれたスーツ姿の男も小さな返事と共に身を
今にも落ちてきそうなほどに近い
カリムには
厄災の無い世界の実現計画に協力し、実の娘すら犠牲を
その墓石には3人の名前が記されており、ジオラスがそれぞれを読み上げながら再びカリムに話し掛けた。
「元ラ・クリマス共和国首相ナスタ―・ドランジア、その
『ドランジア家の人間としてのおまえは、もうこの世には存在しない。』
『こうして縁を切ったはずの
ルーシーが最後に
そしてジオラスがルーシーと示し合せたかのように、今日という日にその真実を明かしたことの意味を
自分がドランジア家の子供だったとはいえ彼は養父でも親戚でもなく、そもそも
「…
カリムは
鎌を掛けるような
一方のジオラスは
「俺が知ってるのは、おまえが天性の毒の耐性であの一家殺害事件を生き残ったものの、記憶障害を引き起こしてしまったこと。ナスタ―の
期待値に反しカリムは端的でも
一命を取り留めたことがまるで喜ばれずかえって邪険に扱われたように聞こえた一方で、ルーシーの性格を
だがそれは胸の内に溜まった
『だから、これからは自由に生きろ。…それがおまえの両親の願いでもあったのだからな』
「…僕はこれから、何をするべきなんでしょうか。」
カリムは古びた杖を握り締めながら、
だが『封印』計画の真相を知り、自分がドランジア家の血統上の
そもそも『
「二度言わせるな。おまえは確かにドランジアの血を継ぐ者だが、ドランジアの人間はもうこの世には存在しない。おまえをここに連れて来たのも、そのけじめを付けさせるためだ。その後のことは、おまえ自身で考えろ。」
「…『
「おまえが
ジオラスは
予想通りに突き放されたカリムは、
もうここに誰の遺骨も埋葬されることがないのであれば、せめて自分が定期的に訪れて管理すべきではないかと思い悩む一方で、建前としてもそのような資格は一切持ち得ない無関係な人間なのだと受け入れざるを得なかった。
誰が
ジオラスが善意で自分に世話を焼いているのではないと
だが坂を逆に駆け上がるように風が吹きつけて周囲の木々が
そして火の消えた葉巻を
「…
「いや、不自然な風が吹いてきたと思ったんだが…まさかな。」
ジオラスはランタンを足元に置いて葉巻を小型の箱に仕舞うと、その
カリムもその姿勢に
元々雷撃を受けて
「…さっきよりも氷の
カリムがジオラスに報告するように
風は元の穏やかな東寄りの
カリムは手元の古びた杖に視線を落としたが、当然ながら先端の隕石は
——でもそれ以外に新たな氷が生まれる現象なんて、悪魔を顕現させた者の
「…行くぞ。」
恐らく同じことを考えているであろうジオラスが、聞いた限りで最も低く重い声音で短くカリムに呼びかけた。
そうして
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