第2話 確執と自失
ドールが最後に記憶していた日付は、同年6月1日の
「議長はラ・クリマスの悪魔をこの大陸から排除し、厄災の無い平和を実現することを掲げておられた。そのために
イリアが少し言いにくそうに一国の首相の
なかでもドールはグレーダン教徒として創世の神を
——神様と並び立つ? 天国を訪ねようとしているということ?
——天国は永遠の命を得るために、
するとドールの右隣に立つネリネもまた鼻で笑いながら、両腕を広げてイリアに問いかけた。
「つまり私たちは、議長様の雄弁なる
いくら奇妙な状況とはいえ、角が立つような物言いにステラは戸惑いを隠せないようであったが、当のイリアは表情を変えずに釈明を続けた。
「議長は旧大陸帝国王でもあるグレーダンの子孫であり、ラ・クリマスの悪魔を『封印』するため生み出したディヴィルガムという杖を代々密かに継承されておられた。…
「そして身内にのみその真相を語り、二度と悪魔を捕らえ集めることがないよう警告し、本物のディヴィルガムを
「すみません、その話は聞き捨てなりません。」
ドールはイリアの語る言葉に生前触れてきた史実や観念を大きく揺るがされ、失礼を承知の上で横槍を入れていた。
結果として再び6人の注目を浴びることになり、
だがこのまま押し黙っていれば今度こそ本当に
「グレーダンは厄災に苦しむ民を救うために創世の神から預言を
一方のイリアは突然
「…その因果関係は、すまないが私にも
ドールにとっては苦し紛れにも聞こえた反論だったが、確かにその事実だけは認めざるを得なかった。
本物のディヴィルガムは大司教が代々継承してきた
だが
それが死後に見た奇妙な夢の世界の出来事であったとしても、
「…悪魔を『封印』したことが
「これは長い時代、長い年月を経て信仰されてきた史実であり、語り継ぐ書物や絵画も数多く存在しています。しかし、グレーダンの死を神罰だと
ドールは顔を
だが不意にその間に割って入るように、ピナスが遠くから
「
それが明白にイリアの肩を持つような発言だったので、ドールは息が詰まったかのような顔でピナスに向き直った。
ラピス・ルプスの民については、預言者グレーダンと友好的であったという
だが『7つの
そのラピス・ルプスの民の少女が、今この場で
「老衰…? グレーダンが老衰で天に召された瞬間を、千年前のラピス・ルプスの民が
やや声音の
「長老の話では、『7つの
「…そ、そんな……!?」
「まったく、そんな昔話の真偽なんてどうでもいいわよ。問題はルーシー・ドランジアが何を
ドールは
ネリネやピナスだけでなく、この場にいる全員が
——どうして? 私が間違っているの? 私が信じてきたことすら全部虚実だったの? やっぱり私はここでも、悪しき存在として
一方で円形の空間の中心に躍り出るような形になったネリネは、
「それで、さっきからそのルーシー・ドランジアを殺せって
だがドールは
すると
『…ルーシー・ドランジアを止めろ……
自分の声音をずっと低く冷たくしたような響きに
その垣根の奥に何かが
「
「何よそれ…私はラ・クリマスの首相になんて会ったことはないし、
ネリネは露骨に不機嫌な調子で吐き捨てたが、その
「間接的な危害なら加えられとるはずやで。君はドランジアに
「…確かに食べた記憶はあるわ。でもリンゴ自体は別に珍しい食べ物ではないんじゃないの?」
「せやからその普遍的な果実にドランジアは魔力を込めて、警戒されずに摂取できるよう仕込んどった。それであとは
ドールはクランメの言葉を半信半疑で聞きながらも、自分も同じようにリンゴを口にしていたことを思い出した。
一口どころか自然と丸ごと1個を食べ切っていたことは、今になって振り返れば異常な食欲であった。そしてそれを勧めたのはアメリアであり、そのリンゴを孫と呼ばれていた女性が持ち込んでいたことまで記憶が
——あのお孫さんが首相だったのかは
生前のドールは教団の秘密を
だが
そして厄災を引き起こすため、周囲から
——もしかしてあの時アメリアおばさんは…最初から私を厄災に利用するつもりで恩を売っていたの…? 私が本当の悪魔の子として非難され、絶望することを望んでいたっていうの……?
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