第8章 囁く黒花
第1話 覚醒
——きっと死んだ私は、底なしの落とし穴に吸い込まれるようにどこまでも
身体を広げているのか縮こまっているのか、そもそも身体があるのかも
何も
だが溶け出しそうな思考は、
生きていた時のことなど
だからその暗闇に
どちらかといえば、その光の穴がゆっくりと拡張していったと表する方が正しかった。それは
真っ白な世界で、修道女ドールは目を覚ました。
遠い昔に見た白い炎が
そこには
手を伸ばしても
そして自分が生前と同じ
——ここは…どこ…? …私、死んだはずじゃ……?
「……イリアさん!!」
突然知らない女性の悲痛な声がして、ドールは当人でもないのに自然と身を起こし振り向いていた。
すると黒い円形の足場を緑地のワンピースを着た女性が
イリアと呼ばれた軍人もどこかぼんやりした表情のまま、身を起こしてワンピースの女性の肩を抱き寄せていた。
ドールが改めて周囲を見渡すと、他にも4人の女性が同じように円形の空間の
そのなかで、昔大聖堂で読んだ本に描かれていたラピス・ルプスの民の少女に思わず視線を奪われた。
だが物珍しさに染まった視線に嫌気が差したのか、その少女が
——あれ、確かラピス・ルプスの民は、瞳の色まで銀色に描かれていたような…?
その
「イリアさん…ごめんなさい、私……グリセーオで、厄災を引き起こして…大勢の人たちに迷惑を、かけてしまって……。」
ワンピースの女性はイリアの肩にしがみつき、
イリアはその赤みがかった茶髪を優しく
一方でドールの右手側では、桃色地のドレスを着た少女が更に右隣の女性に向かって声を荒げていた。
「…ちょっと、
その女性が
だが当の女性はその
「どうと言われましても……私が死んだとき、こういう
「…それもそれで
その女性の胸元には、拳の大きさ程の黒い
とはいえ骨や血肉が見えるわけではなく、ドールは遠巻きに痛々しそうな目で
その女性は
「…さぁ、何なんでしょう。別段痛みは感じませんが。」
「同じ
その女性の右隣でいつの間にか立ち上がっていたラピス・ルプスの民の少女が、シャツの襟元を引っ張り胸元の黒い
それを受けてドレスを着た少女も恐る恐る胸元を確かめ、苦々しそうな声を上げた。
ドールもこの場で
確かに痛みはないものの、
「何を今更
イリアとラピス・ルプスの民の少女の間でこの場を静観していた眼鏡を掛けた女性が、独特な
その
——まさか、ここにいる私以外の6人も
「
その
ドールはルーシー・ドランジアという名前が、ラ・クリマス共和国の現首相を指すことは知っていた。
首相
そんななかドールの左側でイリアが立ち上がり、この場を取り仕切るように話し始めた。
「私も同じように、ドランジア議長の手に掛かって命を落とした。…恐らくこの中で最後に死んだのが私だろう。だが死因がどちらにせよ、我々が議長の
「…申し遅れた、私は大陸平和維持軍 国土開発維持部隊の隊長を務めていたイリア・ピオニーという者だ。」
イリアが
「ステラ・アヴァリーです。グリセーオの街で孤児院の管理人を務めていました。イリア隊長とは仕事上の付き合いが…ああ、先ほどは急に取り乱してしまってごめんなさい。」
ステラの後頭部に結わえた長い三つ編みが小刻みに揺れる合間を
それを受けて、眼鏡の女性は
「…クランメ・リヴィア。アーレア国立自然科学博物館の元職員。」
肩書に皮肉を混ぜたような物言いを、その隣のラピス・ルプスの民の少女が模倣するように続けた。
「
ピナスは腕組みをして語りながら、裸同然で黒い花畑に座り込んだままの女性をやや
「…ロキシー・アルクリスです。セントラム盆地の領主
ロキシーは
少女はどこか気まずそうに両腕を抱えて口を
「……ネリネ・エクレット。交易都市メンシスの領主の娘。」
そして
「あ、えっと…ディレクタティオの修道院に従事しております、ドールと申します……。」
だがドールは円形の空間に並ぶ6人の色とりどりの瞳から一身に注目を集めたことで、
目覚めたときから長い
その
——ああ…こんなに色んな人たちの前で名乗ったことなんてなかったのに、髪を隠していなかったせいで絶対に不審に思われた。どうして私は死んだはずなのに、また
ドールは空の両手を組んで身体の震えを
「ねぇ、イリアさん…ここって一体
イリアはその数々の不安に何とか
「ここが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます