第4話 悪魔の器
グラティア州西端に位置するソンノム霊園は高台から海洋を見下ろせるような地形で
その
時刻は18時を回っており、一般市民の入園は締め切られていたため、霊園を囲む木々の静かに
ルーシーは墓石に何を語り掛けることもなく、
だがその先の円形の広場に、1人の見慣れた女性が待ち構えるように直立していた。
朱色を基調とした制服に大陸軍所定の
ルーシーがその5メートルほど手前で足を止めると、
「久しぶりだな、イリア。こんな
ルーシーは
事前に何の約束も取り付けないどころか私的な時間に介入すること自体
そしてそれを
それでもクランメ・リヴィアの安否を思うと、やはり引き下がるわけにはいかなかった。
アーレア国立自然科学博物館の近辺は通過しなかったため、今日の午後にルーシーの
イリアは意を決してそのクランメからの告発文書を取り出すと、
「
質問は単刀直入でありながら、最終的にやや回り
「陰謀とは人聞きが悪いものだな。だが私が意図的に厄災を引き起こしているのは紛れもない事実だ。」
ルーシーが
——
——仮に事実だとしても
それにも
「何をそんなに驚いているんだ?
「そ、そのようなことは……私はただ、国家
「別に
ルーシーはクランメとの接点まで認めたうえで、怪文書の差出人まで
だがその発言を聞いたイリアは
——リヴィア氏のことを何だと思っているのか。…私が疑いたいのはそのひけらかすような悪意だ。
「…クランメ・リヴィア
「部下を
「
「
「…そのために罪のない者が悪魔を宿し犠牲になっているのですよね?」
「ああ、それ以外に適切な方法がないからな。」
淡々としたルーシーの回答に、次第にイリアの表情は
「…それだけではございません。ここ30日間の相次ぐ厄災により、何も知らぬ国民もまた生活が脅かされて深刻な混乱の
「
イリアの一息で吐き出すような抗弁に、ルーシーも小さく溜息をついて言い返した。
「厄災が起きれば
「だが悪魔を順次『封印』する計画が大陸全土に知られ渡ったらどうなる? それこそ国民の不安を
「確かに現状も被害は深刻だが、計画的に引き起こすことで厄災自体は長期化することなく終息させられている。
何とも非情で
ラ・クリマスの悪魔を排除する大義名分とはいえ、あまりにも国民を
「計画的…? 交易の拠点や産業の
「おまえと違って、私は長期的な視野を持たねばならないのでな。半永久的にラ・クリマスの悪魔をこの大陸から排除できるのであれば、国として許容できる範囲の損害だと考えている。」
イリアは手にしていたクランメの伝書の淵を一段と強く握りながら、更なる疑惑についてルーシーを追及した。
「…リヴィア
「本当に悪魔を『封印』するために厄災を引き起こしているのですか? もし別の目的を掲げておられたり、何の確証もなく悪魔を捕らえておられるのならば、それこそ陰謀と形容されても
だが声音に荒々しさが増していくイリアに対し、ルーシーは依然として落ち着き払った冷淡な口調で応戦していた。
「
「…ならば、一体どのようにして実現されるおつもりなのですか!?」
「それをおまえに明かす必要はない。」
「
「私がおまえを最後の悪魔を宿す
ルーシーの断言は、一瞬で血の気が
「昨夜おまえの自室に届けておいた差し入れのリンゴは
言われるまでもなく、確かにイリアは臨時拠点の自室に置かれていたリンゴを口にしていた。昨日は復旧した蒸気機関車の到着を待ち
軍人用の配給だと捉えて何ら怪しむような余地もなかったが、
ルーシーの言う『悪魔を顕現させやすい体質』が具体的に何を指すのかも、
それでも尊敬し従っていたはずの人物に、悪魔を宿す
だがその一方で、
——議長はやはり私に『
——本当に私の命を最後に大陸の平和が実現されるのなら、悪魔を身に宿すことは
——だが結局議長からは、何も納得できる答えを得られていない。本当にこの国の良き未来に貢献し
イリアは思案を
「動かないでください、ピオニー隊長。」
そして同じ方向から投げ掛けられた言葉に、深々と胸を突かれたような感覚を覚えた。聞き慣れていたはずのナンジ―・レドバッドの声音は
「…レドバッド副隊長、君には拠点で隊員を束ねる指示を出していたはずだが?」
無情な
この状況で真っ当な回答が得られるとは期待していなかったが、その返事は右後方から同じく聞き覚えのある
「すみません、隊長。俺もそいつも、今まさに仕事の際中なんすよ。」
ナンジ―の立ち位置からして右後方にも同様に拳銃を向けている者がいるとイリアは推察していたが、その正体がウィロ・カルミアだと
そしてその反応を興味深そうに
「背後に立つ2人はおまえの部下である以前に、私が統括する『
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