第5話 大いなる野望
その瞬間、再び空気が砕けるような音と共にルーシーの足元から鋭利な氷柱が生成され、首筋を捕らえるように差し迫った。
クランメがふらつくように振り返ると、
「おまえ、人を
「そう怖い顔をするな。研究者たる者、結論は人の要件を最後まで聞いたうえで口にするのが筋じゃないか。」
だがルーシーは意に介すことなく蛇を思わせる
その独特な
そんな
何の温度変化も生じない、空気に直接溶け出すような消滅の現象には改めて不気味さを覚えた。
——不本意なことこの上ないけど…感情的に歯向かってもこの
一方のルーシーは氷柱が消えると、作業台の下に置いていた
中身は古ぼけた杖であり、先端には黒い鉱石が着装されていた。その杖に見覚えがあったクランメは、思わず目を丸くして作業台へと近付いた。
「これは…ラ・クリマスの悪魔を『封印』したって言われとるあのディヴィルガムか!? せやけどあれは、グレーダン教の大司教が代々受け継いどるはずなんじゃ…?」
「あれは
「私はいずれ大陸議会の一員となり、そして首相となってこの国をより繁栄させたい。だがその最大の
「この国は長い内戦時代を経て、人権を始めとする法整備を推進し諸外国に引けを取らない立法体系と政治体制を確立しつつある。だがそれらを
「諸悪の根源たるラ・クリマスの悪魔をこの大陸から引き
不意にルーシーがディヴィルガムを拾い上げ、クランメに先端の隕石を向けてみせた。その瞬間隕石から胸元に向かって不可視の光線で射抜かれるような
——
悪魔を宿したことで、クランメはその隕石を突き付けられることに対して本能的に
同時にルーシーが持ち込んだ杖が
ルーシーはその反応を再び興味深そうに
「ディヴィルガムは確かにラ・クリマスの悪魔を封印するために使われたが、伝承される『
「厳密にいえば、この
「従って、
ルーシーはその
クランメはその奇怪な現象に眉を
「
「とはいえ、実際に人に顕現した悪魔の
「
そうしてルーシーは作り上げた光る球体をクランメに向かって放り投げた。緩やかな軌道で飛んできた球体はクランメが片手で
それに伴って
「…
——こいつに問い詰めたいことは
——何を聞いても
「ほなら最終的にはうちに宿る『
気付けばクランメはルーシーに詰め寄る
結局のところは単にルーシーの夢物語を聞かされていただけであり、悪魔を宿した
だが依然としてルーシーは動じることなく、クランメの
「確かに悪魔が顕現した者は肉体と魔力とが
「そんなことやろうと思ったわ。結局うちの命なんて
「だが実現不可能とも言っていない。人命を巻き込むことなく悪魔を人の身体から引き
ルーシーの冷静な切り返しに、クランメは思わず
——相変わらず
後出しで
「そんで? 後者はさておき前者の命題はおまえがきっちり担当してくれんのやろ?
「そうだな…やはり現状では隕石の力に依拠せざるを得ない。ディヴィルガム以外にも実験材料としての隕石が必要になってくるだろう。」
その回答を聞いたクランメの口元からは、自然と自虐的な乾いた笑い声が
「…話にならんわ。おまえはその手掛かりも含めてうちに近付いとったんか? それとも将来的に首相になったおまえが、独断でセントラムの地盤を掘り返すような援助でもしてくれるんか?」
「何を言っている。隕石なら
だがルーシーが至って真面目な顔で
「グレーダン教総本山で崇拝されとる祭壇の装飾のことか? そもそもあの十字架は純粋な隕石やない。具体的な比率までは知らんけど、色んな不純物が混ざり
「無論そのことは知っている。
「
「そうは言うても、
仮にルーシーが本当に首相の座に上り詰めたとしても、グレーダン教の信仰と象徴を
そもそもドランジア家はグレーダン教団とは代々
内戦時代を終えてドランジア家が共和国としての新たな立法体系を主導した際、抵抗感を示す者の受け皿となったのがグレーダン教と言われていた。
現代の大陸議会でもドランジア
その事実も重々承知してか、
「…5年だ。5年以内に、私は大陸議会の一員となり十字架の譲渡を実現させ、悪魔を人の身から引き
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