第4話 翻弄
決して温和な
ルーシーとは専攻は違えど純粋に成績で劣っている以上、妄言だの
それでも圧倒的に優秀な彼女はひょっとしたら独自性に
だがその時間は
——
クランメは未熟な研究に評価を求めること自体が浅はかだったと言い聞かせる一方で、捨てきれなかった淡い期待が徐々に
3年後、4年制のグラティア学術院でルーシーは早期卒業を決定させていた。
彼女が最終的に修めた論文は、国策として進行していた『ラ・クリマス一周路線化計画』にセントラムの農業生産を絡めた、大陸東部の貧困地域を念頭に置いた支援物資の拡充策であり、
後にその論文は高評を受けて実際に国策の一環として組み込まれることとなり、卒業したルーシーもまた大陸軍の国土開発支援部隊に即時採用されてその指揮の
クランメもその論文を流し見たが、客観的な高評は正当であるようにも感じた一方で、大陸議会におけるドランジア
だがいずれにせよ、クランメは天より二物を与えられたかのような
また論文にはセントラムの周期的な豊作についても触れられていたが、その原因は
完成された論文としてそれが当然だとクランメは
その翌年、クランメも学術院を修了すると、そのままアーレア国立自然科学博物館に就職することとなった。
元よりプディシティア州とミーティス州の農業環境を比較研究する論文には定評を得ていたが、隕石による土壌への影響を
だが
そうしてもどかしい思いをしているうちにあっという間に1年が経過し、クランメは
学術院時代にセントラムを訪れたときのように再び壊
朱色を基調とする大陸軍の制服を身に
「国土開発支援部隊による物資提供でセントラム産の農産物を
「
壁に
「そうか。まぁ設計図を描くだけで一生を終えないよう
ルーシーはそう言って
そしてクランメが慌ててそれを両手で
クランメは言い返す余地を与えない一方的な
——
その果実は確かに
だがクランメには小さなリンゴを突き付けられることが、ルーシーから暗に
小腹が空いていたことも相まって、クランメは
小さな果実は生意気なくらいに
——おまえと一緒にすんな。誰もがおまえみたいに頭が切れるわけやないし、自然と
——おまえなんかに
そのとき、室内の空気が盛大に
クランメが
一瞬のうちに何が起こったのか理解できず、
これほどの凍結の中で
——おいおい、どないなっとんねん。仮にも間借りしとる部屋やぞ。こんなん誰かに知られたら
その
「ああすまん! ちと部屋が
「おいクランメ、伝え忘れたことがあったんだが…どうした? 扉から冷気が漏れているぞ。」
だが返事の主は立ち去ったはずのルーシーであり、クランメは背筋に不快な緊張が
そして
「ドランジアか。…別にあんたが気にすることやあらへん。
その拒絶反応を込めた言葉は扉に突き刺さったかのように新たな氷の結晶を生み出し、一層堅く閉ざそうとしていた。そこで
「それ以上氷結を広げると博物館全体に被害が及ぶぞ。それだけでなく、おまえ自身の生命も危険に
だがルーシーの冷淡な指摘を受けて、クランメは思わず口を
——うちに悪魔が顕現した…!? いや、そもそも
隕石に
とはいえその悪魔が自分に顕現することも、
「…
「氷結を生み出すのは『
そしてその秘めたる悪徳を見透かされることは、クランメにとってこの上なく耐え
クランメは
「落ち着け。おまえが悪魔に呑まれるのは私の本意ではない。まずは部屋の氷結を解いて私を中に入れろ…事情を知らない人間が通りかかる前にな。」
クランメは早くも意識が
——ああもう…何が
そしてこの
不思議と本能的に力の使い方を理解していたが、水浸しにならないよう氷結を一気に昇華させるには、より強い出力が要求された。
——なんで…
「…気が付いたな?」
いつの間にか暗転していた視界が開けてくると、真っ
自室の作業台で実験材料のように寝かされていたことに気付くと同時に、何事もなかったかのように乾きを取り戻した室内を、
一方で身体もまた乾いて温かいはずなのに、クランメは
ルーシーはその反応を興味深そうに
「これほど
「…一体うちはどれくらい眠っとったんや?」
「私が部屋に入れるようになるまで3分、そこからおまえが目覚めるまで5分といったところだ。悪魔を宿したばかりの身で過剰に魔力を放出させると、身体が耐えられず
クランメにとっては初めて聞く情報ばかりで、覚ましたての脳ではルーシーの
だが1つだけ、
クランメは作業台から降り立つと、ルーシーに背中を向けたまま冷たく問いかけた。
「…ドランジア、おまえは初めからうちやなくて、うちに
「ああ、理解が早くて助かるよ。どうしても私が野望を実現するためには『
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