第3話 ドランジア
クランメの分厚い眼鏡の奥に浮かぶ
「…僕も詳しくは知らないんです。『
「ですが、その舞台を意図的にお
「ドランジアが予見したんはディレクタティオんときだけやったんか?」
「あとはメンシスとグリセーオ…ですけど、グリセーオのときは大まかに大陸東部での待機を指示されていただけです。」
するとクランメは何か納得したように
「やっぱりな。ドランジアは最初から何人かに目星を付けとって、直接的か間接的かはさておき手を下すよう
「…そう言いますけど、具体的に議長が何を
カリムが
——でも無反応や無関心よりはよっぽどええわ。こっからは、うちの実体験にどれだけ
「ちょいと話を戻すけどな、厄災を起こすためにラ・クリマスの悪魔が重視するもんは、君も知っての通り悪徳の強さや。せやけど厄災の規模をより大きく、長期的に発達させるためには、そんだけ膨大な魔素が必要になる。」
「人の体を蒸気機関車に例えるなら、魔素は石炭、悪徳は
「つまり、それなりに悪徳を高めた
「…
カリムはこれまでの説明のなかで最も
——
「ドランジアもまた、魔素を認識し操ることができる奴なんや。具体的な能力は生意気にも明かそうとせんかったけど、
「そもそもそないな技術があらへんかったら封瓶なんて開発
苦労して作り上げた封瓶が、決して欠陥品ではなく試作品であるという主張を補完するようにクランメは言い聞かせようとしたが、カリムはこれまで以上に
「あの…ドランジア議長にも、ラ・クリマスの悪魔が顕現しているってことなんですか?」
「それは
「1つは、ドランジアはうちが悪魔を宿すより更に何年も前から魔力を
「実際の手段は憶測でしか語れへんけど、確かな道具と豊富な手駒が
クランメは少し休憩を挟むように
——今のところは順調に思えるが…
「あの…リヴィアさんは、
その真っ当な問いかけに、クランメは苦笑を浮かべて椅子に
——あんまし昔のことは思い出したないんよな。…『
クランメは腹を決めて
「せやな…
**********
10年前、大陸南西部ミーティス州の
ドランジアという姓を知らぬ者は、少なくともこのグラティア州には存在しないだろうと言われていた。
約150年前に長く続いた内戦時代が
1つは、内戦における事実上の勝利者として現代における大陸平和維持軍を創設したピオニー家。そしてもう1つが、共和制の
ピオニー家が今でも貴族の
3年ほど前までも大陸議会の議長を務めていたのがナスタ―・ドランジアという男であり、ルーシーはその次女として、大陸随一と評されるグラティア学術院に入学した事実が
だが他の同期生が野次馬のようにルーシーの周囲に
ルーシーの
そして周囲の期待通りに、ルーシーは
そのうち政治経済専攻であるはずのルーシーは、何の意図か他学部の研究にも顔を
それはクランメが所属する農学部も例外ではなく、ある日には農業盆地として発展しているセントラムの土壌調査へクランメと共に同行していた。
当時は
それどころかルーシーはセントラムに到着しても
だがこの時既にルーシーには
一方でクランメが掲げていた研究目的もまた、セントラムの周期的な豊作期に関連していた。
プディシティア州の主な生産品が野菜や果実であるのに対し、故郷であるミーティス州は麦などの穀類が生産の中心であったが、セントラムで見られるような周期的な生産量や品質の変動は特段生じていなかった。
クランメはこの特色の違いについて、千年近く前に大陸に墜ちた隕石を引き合いに着眼点を
「セントラムの盆地は千年前の隕石の衝撃で
「セントラムの地形変動を考慮するんなら、もっと
だが当時は農学と考古学を結び付けるような取り組みは評価が得られず、
それでもクランメは農学を専攻する
元より学術院への進学は故郷の農業発展に寄与することが目的だったが、大陸随一と名高い学び
そんななかクランメの研究課題をどこかで聞きつけたのか、不意に尋ねてきた1人の学生がいた。
「大昔の隕石と農業を関連付けようとしてる変人は君の事かい? 良かったら話を聞かせてくれないか。」
「…あんた
それがクランメにとって、初めてルーシー・ドランジアと口を
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