第6章 忍ぶ篝火花
第1話 瀬踏み
「クランメさん、大陸議会の事務官から面会の要請が届いています。明日午後に『定期連絡』という件で、ドランジア議長の代理人として訪問されたいとのことです。
クランメ・リヴィアは自室の電話機に届いた内線連絡を左耳に
大見出しは昨日旧城郭都市トレラントが
——昨日の今日で来るんかいな。
「明日は休館日やろ。かえってやること
「承知しました。そのように返信致します。」
そうして
書架に詰め込まれた大量の参考書や資料、作業台に散乱する書類の山、そして透明な液体で満たされた何本もの筒状の瓶を
——おまえが思っとる以上にうちも引継ぎとか色々あんねん。そんくらいの
ラ・クリマス大陸西部グラティア州、首都ヴィルトス近郊に建つアーレア国立自然科学博物館に、クランメは職員兼研究調査員として研究用の小部屋を与えられ従事していた。
その自室に内線連絡を受けてから翌日の夕方まで
大陸随一と言われるグラティア学術院に入学するため
その中でも店構えが変わらない行きつけの酒場にクランメは立ち寄り、カウンター席でお気に入りの果実酒を
小柄な体型
その店主に向かって
「…なぁ、もし明日でこの世界が終わるとしたら、あんたなら
一方の店主はその
「そうですね…私は酒場の店主ですから、
「おい、
「ああ、でも本当の
「あっそ。
「
クランメは
だがクランメは
「うちは研究員やからな、世界が吹っ飛んでも
「…まぁ、
その翌日、予定していた14時にアーレア国立自然科学博物館の受付に現れた、カリムと名乗る大陸議会事務官の
クランメは大して寒くもない館内で深緑色のストールを巻き、白衣の下にセーターと黒地のタイツを着用していたが、カリムは
一方で青年は
だが彼が布に
その道中、展示されている珍しい草花や鉱石を見て回る来館客を尻目に、クランメは
「アーレアに来るんは初めてか? ここは内戦時代に盛況だった闘技場を国が買収して改装してな、単なる展示場としてだけやなく自然科学関係の研究施設も色々と詰め込まれて充実しとる。うちも
「…そうなんですね。」
「ああ、ところで聞き慣れない
クランメは
そして階段を下っていくと、円形の舞台を何段もの長椅子で囲むような広々とした地下空間が現れた。
無数の照明器具によって照らされている舞台には、
面会にしては
「
そうしてクランメは
カリムは地下空間の肌寒さと妙な不気味さにやや警戒を強めながらも、薄暗い足元に気を付ける振りをしながらゆっくりともう一方の椅子を目指した。そして慎重に着席すると、クランメはまた他愛のない話を続けた。
「上が正々堂々たる決闘の場なら、ここは法外な賭け金が動く闇の闘技場だったなんて言われとる。国はそないな
「ところでこういうんは
「えっと…すみません、『定期報告』の件でお邪魔したんですが。」
カリムはクランメの雑談に
——
クランメは面白くないと言わんばかりに
「…で、
「いえ、その…『定期報告』とだけ言えばそれで伝わると
細身な体型が更に恐縮するような気まずさを
——ドランジアの奴、どういうつもりやねん。トレラントの一件の後早々に部下を送り付けようとしたわりには、この子はうちのこと
——いや、
「『定期報告』と称してうちを訪ねる連中は
「…はい。」
「まだ若いのに、なんで『
「…ラ・クリマスの悪魔をすべて封印して厄災のない世界を実現したいからです。」
「それ、
「…僕自身、悪魔に因縁があったので、議長を通して志願した次第です。」
質問を重ねる
それを踏まえて、クランメは更に質問を続けた。
「いまは君がディヴィルガムの使用者ってことでええんやな?」
「…はい。」
「ほなら君が昨日まで起こった5つの厄災
「…厳密には3体です。もう1体は僕と同行していた者が仕留めました。あともう1体…『
——どういうことやねん。5体の悪魔を全部『封印』したからうちのところに来たんとちゃうんか。…とはいえそんな嘘を並べる理由も判然とせえへん。ほんなら、次に探りを入れるべきは……。
そこでクランメは、カリムが持参していた棒状の荷物に目を付けた。
「君が持ってきたディヴィルガム、少し見せてもろてもええか?」
クランメはこれを
だがその反応にやや
——これは…巧妙な
——しゃあない、もう一歩仕掛けなあかんな。…向こうが陰湿な手口に出るんなら、うちはこの子をとことん利用するまでや。
クランメは
次にカリムへ視線を向けたときには、分厚い眼鏡の奥に浮かぶ瞳が、深海を思わせる
「ほんならうちがラ・クリマスの悪魔を宿しとる身やったとしたら、君はどうするん?」
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