第7話 あだうち
そのとき別の方向から何か空気を裂くような音がして、人間の男が
猟銃を構えた男が静かに距離を詰めていたところを、右手側から何者かに肩部を射られていた。
ピナスが恐る恐る茂みから顔を出すと、男に刺さる弓矢がラピス・ルプスの民が使うものであり、時を同じくして狩猟に出ていた父カランがこの危難に
——本当ならこの隙に退散することが、妥当な判断なのかもしれない。
——でも、こいつには直接
ピナスは茂みを
「…
ピナスを見上げた男は、
だが実際にその口から言葉を聞き出す前に、再び広場で銃声が鳴り響いた。
次の瞬間にはピナスは強く突き飛ばされて倒れており、振り返った視線の先ではピナスを
ピナスは『
だが脳内はその現実を受け止めきれず破裂したように真っ白になり、ピナスはカランへ近付こうとぎこちなく
「父上……父上…!!」
一方のカランは想像を絶する苦痛に歯を食い縛りながら、そのピナスの挙動を制止させるかのように腕を伸ばした。
「来る…な……ピナス……逃げ…るんだ……!!」
その
だが今度こそピナスを狙った銃弾は、
狼は銃撃の痛みを
突如顕現した『
カランはその狼をぼんやりと見つめながら、弱々しく
「プリム……すまん……あとは…頼んだ……。」
その
「ピナス。アリスのこと、クラウザのこと…頼むわね。」
急転する事態に
再び降り
取り残されていたピナスが
その後青白い怪鳥が不安定な低空飛行を続けながら南下している姿を発見すると、ピナスは遠巻きに獣道を
だが怪鳥が狙いを定めていたのは、
泥に
だがそのときサキナの背後の茂みから突進するように、何者かが現れて立ち
そして突き出した何かに貫かれるようにして、怪鳥は青白い粒子状に拡散し2人を通り過ぎるように消滅していった。
一段と強まる雨音と動悸の中で、ピナスは息を押し殺しながらその悲劇の
母プリムの
そして悲劇に終止符を打った杖のようなものを握る、眼鏡をかけた長い黒髪の女性軍人の人相が鮮明に記憶されていた。
**********
あのとき手負いの人間の男に話しかけようとせず、父が
だが仮に両親を失わなかったとしても、
——母の願いにそぐわず
——いくら人間に
——そして目的を果たすために、
「…ルーシー……ドランジアに……!」
「私の名を呼んだか?」
大粒の雨が降り
経験したことのない疲労感と雨で湿りきった衣服と毛並みで、
雨粒に
そのすらりとした上背と長い黒髪、銀縁の眼鏡、そして蛇を思わせる
「貴様が…ルーシー・ドランジアなのか…?」
「ああ、その通りだ、悪魔を宿したラピス・ルプスの民よ。」
淡々とした答えを聞きながら重い身体を起こしていたピナスの口からは、自然とくぐもった笑いが
もう
「そうか、そうか…やはり
その
だがルーシーは右手に握っていた傘の
予想だにしない反応と腕力により身体を強く打ち付けられたピナスは激しく
頭部には
——強い……なんという腕力だ。…
一方のルーシーは急襲に
「
水滴に
「2つある。…1つは、我が一族が暮らす集落クラウザに届けられた勧告の返事だ。…我々は貴様らの
「そうか。…2つ目は?」
「…単なる
それらを聞いてもなおルーシーは
「あのときのことはよく覚えている。だが私は悪魔を討ってなどいない。正確には、討ち取る直前に自滅したんだ。」
その冷静で冷淡な答えに、ピナスは目を見開き息を呑んだ。
「
ルーシーが語り掛ける言葉が呑み込めず、ピナスの脳内は早くも混乱し始めていた。
——自滅…? そんなことがあり得るのか…? それだけではない…先程からこいつは何を言っているんだ…?
目の前の女がラ・クリマスの悪魔について知らない知識を
「それと勧告の件だが、君の回答通り今後我々は不可侵・不介入ということで承諾しよう。」
そして
目的が達せられたことは
「…貴様、何が目的だ?」
「知りたいか? 今に
ルーシーの
不快な音がした方へピナスが視線を落とすと、ルーシーの右手が
隙間からは淡い
ピナスは一段と目を
「…何なんだこれは!? 貴様一体何をした!?」
「ディヴィルガムを知っているのなら見当は付くだろう? 『
ピナスはこの圧倒的な強者に捕らえられた以上、故郷へ帰ることは叶わないだろうと覚悟はしていたが、あまりにも
「ふざけるな! 人間の身でそのようなことができるわけが…!?」
「できるさ。そのためにこの力を
その
「おまえは私に
——今
「不思議そうな顔をしているな、ラピス・ルプスの民よ。『
「だが案ずるな。私はそのような
「だから君には、その
——申し訳ありません、お
——どうか、
ルーシーは空いている片手で腰元の
液体が
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