第8話 おもかげ
そのルーシーが初対面の
だがその一方で、静かに立ち並ぶ長い黒髪の2人はどこか雰囲気が似ているようにも感ぜられていた。
「ルーシーさん…
本来なら隊長であり孤児院の元締めであるルーシーには
とはいえ孤児院の子供が直接世話になったならば恐縮するのは当然であり、カリムが大事そうに抱える小袋もルーシーが露店で買い与えたものだと
そしてステラが口走るその
「そう。それじゃあリオが待ってるから早く行ってあげなさい…昼食は残しておいてあるからね。」
ステラがやや早口のままに促すと、カリムはルーシーに向かって一礼し、長い黒髪を揺らしながら廊下の奥へと姿を消していった。
その様子を見届けた
驚く間もなくステラがそれを両手で
「道中の拾い物だ。孤児院の雑収入にでも計上しておいてくれ。」
ルーシーがさばさばとした口調で言い残し
「あの…カリムが何か、ご迷惑をお掛けしなかったでしょうか?」
神妙な
「私は特段不快な思いをさせられてはいないが?」
「そうではなくて…何か無礼を働いたりしなかったでしょうか? あの子は昔から
呼び止めておきながら
「そう思うなら、君ももう少し落ち着きを
先程の早計を暗に指摘されたステラは一瞬
玄関口に立ち
それと同時に、
ステラが廊下の突き当たりにある個室へゆっくりと向かうと、ベッドから身を起こしたリオが
それがカリムにとってどうしてもリオに買い与えたいものだったのかどうかは
「ねぇ、カリム…さっきの隊長さんが落とし物を拾ってくれてたみたいなんだけど、これは
その質問と共に例の
「…知らない。俺のじゃない。」
だがステラにとっては、その一連の言動だけで
「そう、
できるだけ言葉を選んだつもりだったが、カリムもこの先に待ち構える追及から
だがそのカリムの服の裾を、リンゴの果汁に
「お姉ちゃん、もっと食べたい…。」
リオはカリムのことを初対面の頃から、その長い黒髪を
「ごめんなリオ、今日はもうそれしかないんだ。…って、もう1個食べ切ったのか?」
カリムは
「うん。
「
見兼ねたステラがベッドへと歩み寄り、ハンカチを取り出してべたつくリオの左手を
続けてリンゴの芯を回収し右手も
その
「…欲しいの。もっと、欲しいよおおおおおおおお!!」
リオの
次にステラが目覚めた時には既に日が暮れており、ジェルメナ孤児院と周辺の建物が
その間に、ステラはルーシーから怪奇現象の真相と
リオに顕現した『強欲の悪魔』という厄災のこと。リオが無差別に吸い上げた生命活力を制御できず、悪魔の力に呑まれて命を落としたこと。それ
そして一足先に首都ヴィルトスへ帰還することになったルーシーが、カリムの身元を新たに引き受けること。
これらの報告はルーシーの出発
カリムはリオの死を受けて精神的に打ちのめされている旨をルーシーから聞かされたが、彼がその事実だけでなく更に深刻な後悔と自責の念に
そして幼くして壮絶な悲劇を経験した少年に寄り添えないことが、何より悔しく沈痛な思いだった。
**********
以来、ステラはもう二度と孤児院の子供たちに同じような思いをさせないよう、命を取り
——でも、その奇跡のような力でどんなに怪我や病気を治癒して活力を与えようとも、心に負った
——リオを失い、カリムに無言の別れを告げられて
そのカリムの言う通り、
——もっと早くにカリムに寄り添えていれば、隠していた背徳感を見過ごさず踏み込めていれば、ラ・クリマスの悪魔が顕現することもなく、カリムもリオも真っ当に人生を
そう考えると
たった1人…
——でも、これじゃきっとあのときと何も変わらない。いまはカリムが目の前にいる。
——彼が負った心の
そのために、ステラには
「…ねぇ…最後に、1つだけ…いいかしら。」
ステラが
カリムが無言で小さく
「…
今更な質問に少女は
「…サキナ。」
その答えを聞くことができたステラは、
「そう、サキナ……
少し苦笑いが混じるようなその
だが何を問い返される
再び全身が粒子状に崩れ、
その前髪に隠された瞳の色を
——カリム、後のことは頼んだわ……。
——ちゃんと私の命に、意味を見出して……。
——前を向いて、最後までしっかり生きるのよ……!
高台に乾いた音が響き、立て続けに
サキナは空になった緑地のワンピースを握り締め、恥ずかし気もなく地に伏せ身体を震わせるカリムを無言で見つめながら、
だが
先端に着装されている隕石から
『封印』を終えたサキナは同じく地面に転がっていたカリムの拳銃を手にすると、
グリセーオの街を
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