第7話 最後の手段
火花のように一面に弾けた大量の青白い光の粒子は西日に照らされて
その光景に
「
「充分
ステラの目の前では、冷徹な表情を浮かべたカリムがゆっくりと歩み寄ってきていた。その左手には、小さな拳銃が握られていた。
初めて見た凶器に、ステラは思わず
「そんな物騒なものまで…!? でも、それで私を撃ったところで私は
だがカリムは、その拳銃をステラにではなく真上へと掲げて宣言した。
「先生、これは信号弾だ。俺がこの信号弾を放てば、周辺に待機している仲間がグリセーオに
それはステラの想像を絶した最悪な脅迫であり、非情な覚悟を決めた真っ直ぐな視線をカリムが向けてくることが信じられなかった。
だが今しがた
そして何か言い返そうと動いたステラの肩を、背後から何者かが固く
先程まで捕らえていた少女が
そうして無防備に開けるステラの胸元に向けて、カリムが右手に持つ杖を
ステラは血の気が引く想いで、自分より
「ちょっと、本気で言ってるつもりなの!? 何百、いや何千という人の命を
「嘘だと思うなら抵抗してみればいいよ。本当は俺だってこんな卑怯な手は使いたくない。でも最後の手段として計画されていたのは事実だ。」
「信じられない…グリセーオの街が壊滅しても構わないっていうの!? それすらも必要な犠牲とでも言うつもりなの!?」
だがカリムは依然として感情を押し殺した表情のまま、ステラを見下してはっきりと答えた。
「ああ、そうだよ。
「…暴論にも程があるわ! 悪魔の力が必ずしも悪意に満ちたものじゃないって、可能性のある力だって私が散々唱えたじゃない!! それなのに何も寄り添う余地なく人の命を
ステラはカリムの胸元のバッジを
「先生、この国にはね…厄災を
「そして俺は、大陸議会に係る正式な存在じゃない…『
カリムから無感情に打ち明けられた真実を前に、ステラは絶句しその場で崩れ落ちそうになった。
カリムが立場を
「そんな…どうして……私、誰も傷付けようなんて思ってないのに……飢えや
「…先生は、欲張りすぎたんだよ。先生はお節介で、正義感も責任感も強いから、きっとなんでも1人でやろうと
「それがどんなに奇跡的な力でも、大勢の人の命を一方的に
その冷静な指摘を受けて、ステラは更に脱力してしまい
その
改めて黒い鉱石が胸元に突き付けられている様をぼんやりと
——ああ、カリム…やっぱり
**********
ステラがジェルメナ孤児院で正式に従事するようになったのは、
カリムは3年ほど前に事故で家族を亡くし、
元々大陸西部の出自だが、
その理由の1つが『右と左で瞳の色が違う』ことで、他の孤児だけでなく身請けの大人でさえも
結果としてカリム自身も心を閉ざしがちになり、ジェルメナ孤児院で引き受けた時には
以上が、ステラがカリムという孤児について当時の管理人であった母から聞いた情報であった。
これらの事実を踏まえて、ステラは積極的にカリムに声を掛け続け、理解を示して打ち解けようと努めていた。
だがカリムは規則正しい孤児院生活を淡々と送り続け、ステラや同年代の孤児らとは必要最低限の接点しか持とうとしなかった。
それでいて
カリムを迎え入れてから3年ほどが経過し、面倒を見る他の孤児も一段と増えてきたころ、新たにリオという栗毛の女の子を預かることになった。
北西の山岳地帯から流れてくるグリセーオ西端の川岸に
だが容態が回復しきらなかったために、
呼吸器に支障があるのか
そのため少なくとも朝晩は誰か1人歳上の孤児に世話をしてもらう方針が決まったところ、ステラはその担当にカリムを
ステラは
リオもまた救助される以前の記憶が
そのリオの世話にカリムは当然ながら最初は手を焼き、心労や不快感を隠せない日々が続いていた。
だがリオは孤児院の生活に慣れて来ると次第にカリムにも懐くようになり、それに
ステラはその傾向を良しとし、2人の関係を
他方で徐々にカリムが就労時間から戻る時刻が遅くなり始め、何かを密かに
だが依然としてリオ以外には安易に近寄り
そしてその時間の蓄積が
その日常が終わりを告げたのは、ステラが
12になれば孤児院を出なければならない規則だが、カリムには依然として運動すら満足にできないリオを案じ、後ろ髪を引かれる思いを
その日は、国土開発支援部隊によるセントラム産の農産物を主とした物資提供の取組みが初めて実施されることになっていた。
提供といっても大陸軍が直接露店を構えて住民に商品を販売することになっており、その
一方で
だが清掃が一段落着くや
ステラはリオから、カリムが大陸軍の露店を見に行っている旨を聞き及んでいたものの、日々の就労時間の
長期に
「おかえりなさいカリム、遅かったじゃないの……!?」
だが小袋を抱えて
驚き目を
「やぁステラ、ご苦労だね。」
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