第3話 引き寄せるもの
「…おまえら、もういい加減にしろ。論点をずらすな。憶測で物を語るな。俺らは食糧の分配を交渉しに来てんだ。
ステラは
——私が妥協して少しでも食糧を分ければ、この場は一旦
——でも抜本的な解決にはならないし、一度許せば二度、三度と許すことになって、そのうち当たり前のことになってしまう。何か代わりの、もっといい方法がないと…。
ステラが
その中に
そして後から聞いたその不可解な現象の実態を思い起こしたとき、心臓が一段と大きな鼓動を響かせたような気がした。
——もしも、あのときのリオと同じ力を私が使えたなら。
——この状況を打開するための時間を、きっと作れるのかもしれない…!
自然と引き寄せられるように、ステラは小さなリンゴを口元に寄せて
あまりにも
集約される懐疑と不審の視線に何ら動じることなく、ステラは
何の変哲もないただのリンゴであるはずなのに、これを食べれば何かが変わるかもしれないという根拠のない期待が芽生えていた。
酸味のある
「…ステラ嬢、どうかしたのか…?」
普段から物静かなランタンも突然のステラの奇行に戸惑いを隠せず、様子を
だがその声が掛かる頃には、ステラは片手に芯だけを残して
そして、芽生えていた期待が実を結ぶことを確信していた。
「大丈夫です、ランタンさん。私に任せてください。…私が全部上手くやってみせます。
力強く宣言するステラの瞳には、
「……先生! …ステラ先生!! 」
聞き覚えのない青年の声音に引っ張り上げられるように、ステラは意識を取り戻した。
何か硬い長椅子のようなものの上に横たわっているらしく、身体には毛布を掛けられていた。
だが全身は
そのステラを心配そうに見下ろす青年の表情に、徐々に焦点が合い始めた。左目を黒い前髪で隠したその外見にはどこか懐かしさを覚えたが、
「……?」
「先生、俺だよ! 5年くらい前までジェルメナ孤児院で世話になっていたカリムだ…ほら!!」
青年が
ジェルメナ孤児院に所属していることを示すその名札から、ステラは
だが当時は髪全体が肩まで届くような長さだったうえ
それ
「…ああ、カリムね……
「よかった…先生、道の真ん中で倒れてたからどうしたのかと思って…。」
ステラにはそのような記憶はまったくなかった。孤児院の裏手でグリセーオの住民らと何やら
——おかしいな…私、何してたんだっけ……。
横たわっている壁際のカーテンからは、やや傾き始めた日差しが漏れていた。改めて視界を隅々まで
「…そういえば、ここはどこ…?」
「ここは…グリセーオの南にある高台に建っていた無人の小屋だよ。」
「グリセーオ……そうだ、子供たちのところに戻らないと…。」
ステラは歯を食い縛りながら、異様なほどに重たい身体を起こそうとした。その動きを予期していたかのように、
「
「カリム、いま何時なの…? もう日が暮れるなら、早く夕食の準備をしないと…!」
だが窓の外に広がっていた光景は、全身に
そこに広がっているはずのグリセーオの街並みは、
ジェルメナ孤児院が建っていた場所も、アヴァリー家の邸宅も、そして遠方のスラム街に至るまで
あまりの
「…あのときと同じ、厄災…。」
「そう…いや、あのときよりも段違いに深刻だよ。発生から丸1日も経たずしてこの被害の大きさらしいから。」
カリムもまたその光景を沈痛な
当時は駐屯していた大陸軍が
カリムとはその時以来の再会でもあり、それ自体は嬉しいことであったが、同時に
「…カリムは、どうしてここに?」
「え? ああ、仕事だよ…
カリムが胸元に付けているバッジを指差しながら事情を明かすと、ステラは少しだけ胸を
「そう…今もルーシーさんの下で立派にやっているのね。」
「うん。まぁ…そんなところかな。」
カリムが少し目を
その反応をステラは見逃さず
「それで、グリセーオの人たちはどうなったの?…私の他に誰か、助かった人は?」
ステラの問いかけに、カリムは視線を戻すことなくどこか言い
「…
「…そんな…。」
「でも、まだ悲観すべきじゃないと思う。5年前はリオ以外に死傷者は出なかった。あの
あくまで希望を言葉にするカリムだったが、その口調はどこか
「カリム、手伝えることがあるなら、私も…!」
「大丈夫。先生はまだ休んでて。…何か飲み水とか、食べられる物を探してくるから。」
無理にでも腰を上げようとするステラの呼びかけを
何か
「…
「……。」
カリムは小さく
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