第7話 あやまち
大陸東部の故郷を追われ、母と共に領主に仕えることになった幼子。それは母と領主が示し合わせて作り上げた虚実であり、ロキシーはその
そもそも農業盆地であるセントラムでは親も子も協力し合って生活を営むことが当然であることを知っていたし、母に言われるが
だが
母に父親のことを尋ねても一切答えてもらえないなか、
新たに課された普通でない仕事に
そしてその薬を失ったとき、ロキシーは
——確かに私は望まれて生まれた命ではなかったのかもしれない。だから都合の良い道具としてこの命に意味を付与されてきた…
そう
何にも
——それでも私は、確かに人の子であって道具なんかじゃない。それもまた創世の時から変わらない当然の摂理のはずでしょう?
——だから道具にされないよう、私は人を愛したい。そして愛されたい。欲情を満たすためだけじゃない、その人の一生すべてに尽くすことで、必要とされる存在になりたい。その愛する人を、私自身で決めたい。
——それが私の命の本当の意味になっていくのだと思うから。
だがその願望を叶えるために顕現した力はあまりにも
人として愛し愛されたいと願っているのに、結局そのために自分の身体を道具にして利害関係を構築しようとしていた。
その方法を除外したとしても、使用人として仕えること以外に人と寄り添う方法を
ロキシーは一向に晴れないもどかしさに耐え切れず、カリムの体温に浸りながら徐々に
——いっそのこと
——それがどうしても怖い。この温もりを失ってしまうことが怖い。もう二度と手に入れられなくなってしまうようで怖い。…もう、どうしたらいいのか
——あの
そのとき、出入口の扉が施錠を粉砕して勢いよく開かれ、壁に強く打ち付けられて破裂したような音を響かせた。
同時に
ベッドの
頭部から全身を
ロキシーは突然の派手な襲撃に一瞬頭が真っ白になり、その身体は横たわるカリムを護るかのようにしがみついていた。
元々派遣されたカリムの他に何者かが身を
だが部屋に吹き込む冷えた空気が地肌に刺さると同時に、杖の先端の黒い物体を視認するや
——立ち込めていた毒が薄くなってる。どうやったのか
——それってつまり…私が命を狙われているってこと…!?
あの杖の先端で胸元を突かれることが致命傷になると、悪魔の本能が訴えていた。
——カリム様には申し訳ないけど…
先の暴風は
ロキシーはカリムの
『
だがそれは特段重要なことではなく、
そして何のためにこのような襲撃に及んだのかと考えたとき、自分から
——私が死ねば、恐らく『
——でも、いずれにせよあの襲撃者がカリム様の仲間なら、この状況でこれ以上手荒な
ロキシーが思考を
何の抵抗も叶わず肉壁にされているカリムは、
だが襲撃者は左手を掲げると、何の
だがその寸前、ロキシーの左手が襲撃者の左手首を
振り下ろされたその腕はとてつもない重さで、
——
——そんなこと、させない。私は
ロキシーは歯を食い縛り、襲撃者に対する激しい
しかし襲撃者はロキシーの手を振り
冷たい床に不格好に叩きつけられ、ロキシーは小さく悲鳴を上げた。カリムもまた中途半端に投げ出される形になり、だらしなく床へと
——カリム様を、助けないと…!!
せめてその身を起こすべく
そして
だがそのとき、短剣が床に落ちて乾いた音を響かせ、襲撃者はその場にへたり込むように崩れた。
左肘を付いて、仮面の奥から食い縛るような
ロキシーは
——毒だ。大気に
ロキシーが振り撒く毒は元より空気感染、
だが明らかな感情の
恐らく予測していなかったであろう反撃を
——ちょっと
——でも、もしかしたらこの人もカリム様みたいに耐性を持っているのかもしれない。…それなら、今すぐにでも殺してあげるべきよね。
その間襲撃者は何ら抵抗を見せることなく
そうして
だが唇を寄せようとしたその顔は、明らかにロキシーと同じ
猫のような大きな
——嘘でしょう…まさか、女性だったなんて。
派手な襲撃、大陸軍、力の強さ…そうした断片的な推測と感覚、何より
——駄目。こういう若い女性には一番私の毒が効きにくい。それにさっきの反撃も布越しだったから、毒自体は思ったほど回っていなかったのかも……?
改めて襲撃者の少女と瞳を合わせたその数秒間は、まるで時間が止まったかのような錯覚を引き起こしていた。
その原因が胸元に
胸元から全身に向かって広がる温かな波が、
——嘘…嫌…やめて……私まだ、死にたくなんてない……!
——ああ……せっかく…私の…生きる道を……見つけたと…思ったのに……!
そのまま深い眠りに
——カリム様…せめて
——ちゃんと謝れば……
薄暗闇で満たされた部屋の床に、音もなく一着の薄生地の下着が揺れ落ちた。
襲撃者の少女は押し
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