第4話 蛇の眼
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セントラムで『
ラ・クリマス大陸の2大交易都市の1つとして知られるメンシスが突然の竜巻被害に
それは大陸東部で営まれていた対外的な取引をほぼすべて西部に移すことと同義であり、やむを得ない事態とはいえ生半可な整備ではなかった。
それでも大陸議会は早急に国土開発支援部隊を追加編成し、流通網の再構築のため大陸各地へ迅速に出動させていた。
大陸中央部で農産物の多大な生産量を誇るセントラムでは、基本的にフォンス
ただ単純に物量が多いこともあり、今後
そのため朝から邸宅内は
そんななかロキシーは、猫の手も借りたいはずの邸宅内から1人外へ追いやられ、庭園の管理に従事させられていた。
何か罰を受けたわけでもなく、確かに1人くらいはそうした役割も必要だったのかもしれないが、
巡回する警備員を模倣するように
長い黒髪がすらりとした上背を
ロキシーは思わず身を
「そこの使用人さん、ちょっといいかな。」
恐る恐るその女性の顔を見上げると、銀縁の眼鏡の奥から
まるで蛇を思わせる鋭い眼光に、ロキシーは口も開けず立ち
その反応を面白がるように、黒髪の女性は食べかけのリンゴを視線の間に挟み込んできた。
「これ、美味しいから食べてみてよ。」
そう言った矢先、
食べかけのリンゴを手渡された経験は、実の母親からあったかどうかすらも怪しかった。
だがその女性からの暗黙の圧力を感じ、
「この街で
黒髪の女性が気さくに繰り出す会話の意図が見えなかったが、
「…
「へぇ、正解だよ。
予期しない称賛を受け、ロキシーは
「ああ、そういえば名乗っていなかったね。私は国土開発支援第1部隊隊長、ルーシー・ドランジアだ。怖がらせてしまってすまない、
ルーシーと名乗る女性の
「し、失礼いたしました…ロキシー・アルクリスと申します…本日は遠路
「ああ、いいよいいよ、その
ぶっきらぼうに手を振るルーシーを前にロキシーは恐縮しながらも、
今まさに邸宅内では、
「ああいう細かいことは下の奴らに任しておけばいいのさ。そうでもしないと部下も育ってこないしね。」
だがルーシーはその当然の疑問を見透かしたように、庭園の奥に見える邸宅を
「でも私だってただ油を売っているわけじゃない。確かに我々はセントラムからメンシス方面に出荷されていた品々を、今後どのように
「だが逆もまた
ロキシーはルーシーの独り言のような業務事情を
「研究熱心な
食べかけのリンゴを支えるロキシーの両手は、少しずつ汗ばんできているようだった。
——嫌な予感がする。思い返してみれば、大陸軍がこれほど深くセントラムの流通事情に介入してくることなんてなかった。この人は
そうして間もなく自分に降り掛かるであろう嫌疑を予見できているのに、ロキシーは見えない何かに巻き付かれ拘束されているかのように
「実はメンシス港は密輸品が多く
ルーシーの
露骨すぎる
——私、怪しまれているの…? いや、大丈夫、こんな私的な問いかけに否定したとしても、後で何も
何より、母レピアからは当の薬物について絶対黙秘を命じられていた。
「…そうか。いや、物騒な質問をして悪かったな。…やはりこういう話は、君のお母様にこっそりお
半笑いを浮かべながら改めて邸宅の方を眺めるルーシーに対し、緊張から解放されたはずのロキシーの内心はまだ
そして
「だがこれは決して冗談半分という話ではないんだ。メンシス港が突然機能を停止したが
「取締対象として列挙されている違法薬物は十数に上るが…特に問題視されているものの1つは『ミシェーレ』と呼ばれている薬だ。俗に言う、事前避妊薬ってやつだよ。」
ルーシーは改まってロキシーに探りを入れるわけではなく、再び世間話を言い聞かせるように
しかし
「別に事前避妊そのものの是非が議論されているわけじゃない。『ミシェーレ』の問題点は2つある。1つは確実性の高い避妊効果
「これらは副作用の定義を
ロキシーはまるで説教を聞かされる子供のように、目を伏せて沈黙していた。
『ミシェーレ』による
全身が
それはそれで不快感や
——それもまた務めだから、仕方ないことなの。そうすれば
——それが客観的に見ていかに非倫理的で不道徳であったとしても、そういう愚かしい手札しか持ち合わせていないというさもしい現実を、この気高そうな隊長さんは同情してくれるのかしら。
一方のルーシーは、
「ロキシー、君は使用人だが奴隷ではないだろう。
「…いまから千年ほど前、この地に隕石が
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