第7話 まぼろし
浮遊したリリアンは再び竜巻を構成しながら、
「本当に愚かな身の程知らずね。厄災に歯向かうことがどういう意味か
だが確かに聞こえているはずだとリリアンは確信し、蓄積していた
「あたしはねぇ、ただ平穏な人生を送りたいだけなんだよ! 腐った世界から隔絶されて当たり前に恵まれた毎日を享受していた…ネリネのように。
「でもあたしには生まれてこの方そんなものはなかった! 海賊団の首領の下に生まれたその時点で
「だからあたしは、全部何も無かったことにした!
「そのための力が、あたしに宿ったんだよ!! だからそれを邪魔する
元よりリリアンはネリネに対し、何の殺意も抱いていなかった。
だがメンシスの竜巻被害から一夜が明け、海岸で意識を取り戻したリリアンは
その後周囲の者も
なおかつその力を
「…もう二度とネリネの生涯に泥は塗らせない。
リリアンは遠く
罪悪感など
今にも
だが、
虚実に正当性を宿すことは
——本当に
——よく考えれば、いかに大陸議会や軍が用意周到だとしても、メンシスの竜巻被害があった翌日にあたしを
——絶対に別の
その
だがよく見ればそれは槍と呼ぶには短く、先端には鉱物のような何かが着装されていた。黒い鉱物のそれは刃物のような鋭利さはないにもかかわらず、これ以上近付けば吸い込まれてしまいそうな本能的な
そして
これだけはどんな暴風でも手放すことのないよう対策していたことは明白であり、その事実がリリアンの
——こいつの本当の狙いは、この妙な武器を使ってあたしを仕留めること?
——それならナイフで右手の
そのとき、やや外側に向いていた謎の武器の先端が弾けるような火花を放ち、
炎は逆巻く風に
「ちょっ!? ……なに…これっ!?」
だが悪魔の力を断ち切り上昇気流を失ったリリアンは、
真下に風をぶつけて自由落下を軽減しなければならなかったが、予想だにしない
静まり返った雑木林の中で、荒々しく茂みを
リリアンは
——ああもう…! 何だったんだよあの青い炎…! 最初からあの展開も織り込み済みだったっていうの…!?
現在の時刻は不詳であったが、リリアンは
当初の計略とは
——道中で馬車が事故に
メンシスまでどれだけの距離があるか
——お願いだから、もう誰もあたしを
その切望だけを活力に、リリアンは力強く握り締めたナイフを無我夢中で振り回して道を切り
このナイフは父の形見でもあった。海賊団に拘束された際に取り上げられてしまったはずだったが、翌朝海岸で目覚めたリリアンの
もしこの世界に神が存在するのなら、そのナイフを携えてこの理不尽な世界を生き抜くように
——本当に馬鹿な話。…神なんて普段から信じていない癖に、都合の良いときだけ
意識が徐々に
中央にある池は澄んだ水を
街道らしき道は
だが
何の気配もなく
——嘘…ネリネ…? 生きていたの…?
容姿は間違いなくネリネであったが、その表情は何の感情も
そして本物のネリネが生存していたとしたら
ネリネの死をこの目で直接確認したわけではないが、
『…ねぇ、
不意に、ネリネの声が聞こえた。
無表情の口元が動いたようには見えなかったが、聞き慣れた透き通った声音がリリアンの脳内に確かに響いた。
『何のために私の
沈黙を許そうとしないように、立て続けに冷たい問いかけが脳内に反響する。
リリアンはネリネの
「あたしは…
『それなら、
リリアンの答えを最後まで待たずに、更なる無機質な問いかけが降りかかってきた。
その内容に
「…あたしはもう
『それなら、
その右手を何か冷たい物できつく
それでもリリアンはナイフを落とすことがなかったが、代わりにその右手以外の全身が徐々に崩れ落ちていくような錯覚に
——どうしてって…これは単なる護身のためで……あれ…ネリネはそもそもナイフなんて持ってないんだっけ? ……でも、それじゃあ……。
『
そのとき、崩れ行くリリアンを押し支えるように背後を棒状の何かが小突いた。
その先端に着装された黒い鉱石はリリアンの全身に温かい波動を送り込み、柔らかく浮き上がらせるような感覚を
リリアンは振り返ることなく、自分は結局
そして背後に
——ごめん、ネリネ。…あんたの人生を奪ってしまって…ごめんね……。
——ああ……もっと違う形で……あんたに会えていれば……よかったのに…。
鏡面のような
やや焦げ付いた
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