第4話 最後の質問
安易に応じた
聴取用の道具の
「はぁ? 何でそんなこと
「ええ、拘束されれば間違いなく命の保証はないでしょう。ですが
「…だから今度は私があいつを
「ですが、話を聞く限りリリアン・ヴァニタスは望んで海賊団の首領になったようには思えないんですよね。組織の体裁として仕方がなかったというか…事実関係をもっと整理すれば
「…ねぇ、まだこの話続けるの?」
——まったく…何のつもりであんな奴に同情を促そうとしてくるわけ? この
もう二度と『海賊団の首領リリアン・ヴァニタス』の話はしたくない、するべきでないと言い聞かせているのに、何の悪意を
「…申し訳ありません、出過ぎた真似でしたね。でも自分の過去を
歯切れの悪い謝罪以前に、そもそもネリネはこの男の過去に何ら関心を
「自分は大陸北東部地方の孤児院の出自でして…貧しい地域で治安も良くなく、幼くしてまるで生き
「でもそれらすべてを汲み取ったうえで自分を
カリムの独白が
ネリネは暇潰しにこの陰気臭い青年の過去がどこまで真実なのか推し量ろうとしたが、その男の最後の一言がどうにも触れ
——あんな奴を、
不意に馬車が動きを止め、ネリネは驚きのあまり思わず小さく跳ね上がった。
急停止ではなく平常通り減速し目的地に到着していたのだが、思い
さすがに
「お疲れ様でした、ネリネ嬢様。足元にお気をつけてご降車ください。」
ネリネが降り立ったのは、周辺地域でも名高い貴族の大豪邸…ではなく、雑木林をある程度
土地勘があるわけではなく、何ら背の高い目印も見当たらないので、現在位置がまったく
カリムのことを完全に信用していなかったネリネにとって、必ずしも期待通りの展開にならないことは想定内だった。だが令嬢としての反応は当然にそうはならない。
「ちょっと!?
ネリネは何やら
カリムはゆっくりと振り返ると、令嬢の
「申し訳ございません。街道を使えないため大幅な
「馬鹿にしないでよ! 街道を
「恐れ
叱責を強めるネリネを意地でも
予期せぬ気迫にネリネは一瞬たじろぎ、反抗の姿勢は冷や水を浴びせられた。
だがそのお陰で、いまこの場に
「…どういうことよ?」
「もし今回の厄災の元凶がリリアン・ヴァニタスという女性だとすれば、彼女は
またもやリリアンの名を口に出され、ネリネは
「…根拠は?」
「
「他方でもし
カリムは至って真剣な眼差しで——とはいっても片目は前髪で隠されているが——その進言の真意を打ち明けた。
拒絶する余地のない現状に、ネリネは首を振って露骨に大きな溜息をついた。
「…そう。そこまで言うなら聞き入れておくわ。いずれにせよ乗り心地の悪い馬車のお
ネリネは最後まで
「ご理解をいただき恐縮でございます。それでは、明朝またお迎えに上がりますので、どうかごゆっくりお休みくださいませ。」
その場で深々と礼をする青年を
そして
間もなくして馬車が動き出し去っていく音に耳を
——言い得て妙だったな。あの男、やはり何を考えているのか読めたものじゃない。これ以上関わりを持つべきではないな。
大陸軍の臨時中継地点と言い表しただけあって、室内は宿泊施設としては最低限の、簡易で質素な設備しかなかった。ネリネはその狭い空間を隅々まで調べ、何も罠のようなものが仕掛けられていないかを入念に確認して回った。
——疲れた。とても長い1日だった。…さて、これからどうするべきか…。
今朝はメンシスの海岸に漂着していたところから始まり、慣れない長時間の馬車移動を経て、
それだけでなく、
肉体的にも精神的にも、隠し切れない疲労を抱えて当然であった。
だがこの平屋を大陸軍に包囲されている事実や、カリムという青年がまだ何か
まるで袋の
——
——でも、不自然な風そのものが警戒されているかもしれない。いっそのこと厄災の元凶であるリリアンが本当に出現したことにして、不意打ちを仕掛けてここら一帯を竜巻で吹き飛ばすべき? 大陸軍とはいえ、竜巻に対抗できるような手段を持ち合わせているものなの?
—— いや、そもそも海が近いということは、この一帯に生い茂る雑木林は防風林の役目を担っているのかもしれない。もしあたしが悪魔を宿していると最初から疑念を掛けられているのなら、そういう地形に誘導されていても不思議じゃない。
——そんな環境下で、どれだけの被害を
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