第3話 嘘偽りのない事実
知見と経験の差を振り
一方のリリアンも執念だけは負けじと声を張り上げ、何とか反撃を試みようとしていた。
「…そうね、あんたは本当に要領が良いから、迷いなくそういう策を実行できるのかもしれない。でも、こんな荒事は
だが声を振り絞る若き首領の
「
「先代には多大な恩義がありましたし、
ローレンは若き首領としての立場を
そしてローレンは組み伏せられたままのリリアンにゆっくりと歩み寄り、一段と低く冷たい声音で差し迫った。
「
「そしてメンシスから撤退するに当たり、何を確保し何を切り捨てるかを我々は迅速に判断しなくてはならないのです。今回のネリネ嬢の
リリアンはローレンに
「…だとしたら何? 悠長にこのまま停泊し続けるつもりなわけ? あんたが
だがローレンは表情を変えることなく、更にリリアンに顔を近付けて何かを
それが引き金となったのか、リリアンは瞳を大きく見開き、
その直後、リリアンの身体に青白い輝きが宿り、彼女を中心に衝撃波のような風圧が膨れ上がって、船体を
それはほんの一瞬の出来事であり、同じく宙を舞っていたネリネの記憶は、その後海に落ちたのか何にぶつかったのかも
**********
「…これが私の知っている
依然として乗り心地の好ましくない馬車に揺られながら、ネリネは可能な限り鮮明に客観的な記憶を開示してみせた。
その一連の出来事自体に
他方のカリムは
「
その的外れのような、無関心のような返事がかえって
「なんでそんな適当な感想になるわけ? 大体、元を
ネリネの
「…と、いいますと?」
「この前大陸議会で関税法に係る特措法が成立したでしょう? 来年に控えた千年祭の実施に当たって、輸出入品の審査に大陸平和維持軍が介入することになったって話よ。だからお父様は早急に海賊団との取引契約を破棄して、特措法の施行前にその痕跡を
「…結果的にはそれが
ネリネは顔を
そのような文句を大陸議会の雑用を自称する青年にぶつけたところで、ただ相手の不快感を
それでも無関心という
「…まぁ、結果論ですけどねぇ。でもメンシス港に密輸品が
それでもカリムは、無難で他人事のような反応しか示さなかった。必要な事実関係の聴取はもう済んでしまったからなのか、先程までの
結果として令嬢であるネリネに同調するかのような姿勢に移り出していているようにみえたが、ネリネはその様子を生意気に捉えつつも、そのまま愚痴を垂れ流すように話し続けた。
「知らないの? ラ・クリマス大陸には2大交易都市があると言われているけど、ソリス港の方が首都にも近隣諸外国にも近いから表玄関として圧倒的に栄えている一方で、メンシス港は漁村と近いことくらいしか取り
「だから密輸品流通の温床となるには格好の穴場だった…まぁきっとお父様が愚かにも海賊に付け込まれて、闇市場を拡大させてしまったんでしょうけど。」
ネリネの
「メンシスの闇市場は、エクレット
「さぁね。少なくとも私が物心ついた頃にはもう存在していたわ。結果としてメンシスはソリスに引けを取らないくらいに栄えたけれど、そこには密輸品に掛ける独自の関税だのが大きく寄与していたわけで、大陸議会に目を付けられて化けの皮を
「議会は決してメンシスを狙い撃ちするために特措法を成立させたわけではないと思いますが…。」
「どうかしらね。お父様は
「…ネリネ嬢様は、随分とお父上のことを悪く
だが箱入りだったネリネという存在がどのように父親を見ていたのかは、何もかもが明るみに出た今となっては至極どうでも良いことのように思えた。
「…別に。客観的に見て法を犯し続けていたことは明らかだし。」
「でも
立て続けに、ネリネはいつか言われると覚悟していたことを
だがそれ
ネリネはカリムから視線を
「…そうね。そういう風に思われても文句は言えないでしょうね。でも密輸品の流通拠点は、昨夜の竜巻で跡形もなく吹き飛んだでしょう。もし密かに闇市場が生き残っていたとしても、復興のために立ち入る大陸軍によって
「多大な犠牲を払ったことは惜しむべきだけれど、メンシスを浄化するためにはそれだけの代償が必要だったのかもしれないわね。これを機に、
それは証拠隠滅も
それでもネリネは間髪を入れずに、準備していた
「
あくまでしおらしく、
実のところそのような青臭い努力をしたいとは
詰まるところ、これまでに
「…
相変わらず無難で
「ところで最後に1点だけ、個人的な質問をさせていただきたいのですが…。」
「…何よ?」
「もし今回の厄災の元凶がリリアン・ヴァニタスという女性だとして、彼女の身柄が大陸軍に拘束されたとしたら……
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