第3話 悪魔の顕現
意識を取り戻したばかりのドールは、数百という教徒たちの注目…不安、懐疑、失望、怒り、あらゆる負の感情を載せた視線を一身に受ける一方で、無様にも十字架に
普段から
目下の大司教は普段と変わらない穏やかな口調で問いかけてきたものの、ドールはその言葉の裏に漂う失望や
「
大司教が口調を変えることなく、だが少しずつ差し迫るようにドールへ言葉を投げかけて来ていた。
ドールは
そしてその情景が具体的になってくると、黒い瞳を大きく見開き
「…!? …アメリアおばさんのことですか!? …違います大司教様、あの人は決して異端者などという野蛮な者では…!!」
「アメリア・トリナーデ…確かに彼女はディレクタティオで暮らして長い街の重鎮のような存在です。しかし、彼女はこれまで一度たりとも礼拝に足を運んだことはないのですよ。」
「そ、そんなことで異端者扱いするなんて…!」
「重要な点はそこではないのですよドール…
「…………。」
ドールは見下ろしているはずの大司教の姿が少しずつ肥大化して逆に見下してくるかのような錯覚に
大司教から直々に
——確かに大聖堂の図書室で隠し通路を見つけたことも、その先にある部屋に立ち入ったことも事実。その部屋の存在をアメリアおばさんに
——そもそもこの大聖堂において立入禁止区域という規律自体が初耳だわ。図書室の蔵書は
まだ後頭部から
だが規律の不知や不備を弁明したところで、礼拝を離脱し
これだけ大勢の教徒が不審の眼差しを向けている中で、駄々を
それでも、ドールはこの恥辱的な状況を
「…禁域に立ち入ったのは、ただの興味本位です。以前から図書室の書架の配列に違和感を
ドールは
——そう、これがきっといまできる最善。聞いたことのない規則違反をこじつけて聖なる十字架に縛り付ける時点で、明らかに理不尽で過激な処遇だと思うけれど、私の行動自体に弁解の余地はないし…アメリアおばさんまで異端者扱いされて巻き添えを
「…わかりました。ドール、それが
大司教は最後まで穏やかな声音を変えることなくドールに告げると、教徒たちの方に向き直り、祭壇に据えられていた
「大いなる創世の神、ならびにグレーダンの
想像を絶する最悪な処分の宣告に、ドールの身体は完全に凍り付いた。瞳を
「天に
祈祷を終えた大司教が勧めると会衆の教徒たちが一斉に、両手で黒い鉱石のペンダントを握り締めながら各々の言葉で祈祷を捧げ始めた。
その異様で不気味な
ドールの絶望に
その客観的事実だけでも、自分が行きつく
「…どうして……私は、ラ・クリマスの悪魔なんかじゃ……。」
「ドール、これは
「我々グレーダン教の総本山で悪魔が顕現したとなっては、大陸中の信者に対して示しが付かないのです。
ドールは大司教の
だがその脳裏では、自分に一体何の悪魔が顕現したのか説明が一切為されていないことに違和感を覚え、必死に生に
「…大司教様、私が一体何の悪魔に
ドールが絞り出すような声音で訴えると、そこで初めて大司教の顔がやや曇ったように見えた。
もし大司教が下した審判の通りに自らに顕現した悪魔を分析するならば、『強欲の悪魔』が最も該当するに近いと考えられた。
だが物語で語られる『強欲の悪魔』はいずれも健康や生存の執着に呼応する習性が
グレーダン教で
だが大司教は口元を緩ませながら、はっきりと回答した。
「グレーダン教は確かに、厄災の根源たる7つの悪徳を
ドールが
大きな
「何を
ぼやけた視界の先では、大司教がはっきりと不気味な笑みを浮かべているのが
——嫌…やめて……私は悪魔なんかじゃない…こんなの、おかしい……。
——死にたくない……死にたくないよ……!!
「ああ失敬、
そのとき、
**********
恐らく、無意識に笑っていたのだと思った。
今度こそ本当に死ぬかもしれないと察した瞬間、恐怖と悲しさが極限まで高まって身体が膨張していき、
それが
だから、死神に悟られてしまった。
そしてドールの周囲に爆発に似た
さすがに無傷で回避することは叶わず、死神の身に
大聖堂を
「…しぶとく避けるのね、死神さん。それにそのローブ…まるで最初からこの厄災が起こることを予見して備えていたみたい。」
ドールは左手で緩く
深紅の瞳が燃え上がるような光を
「…でも、いつまでこの厄災から逃げられるかしら?」
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