第2話 走馬灯
だがドールはその反動に一切
溢れんばかりの悲壮感が全身を熱く
殺されかけ、殺し返し、再び命を狙われているというのに、
死神は初撃こそドールの勢いに虚を突かれたものの、その後は大鎌の軌道を予測して危なげない回避を続けていた。
その身の
——この死神は本気で自分を殺そうと機を
——でも本当に神様の遣いだとしても、大人しく言いなりになるつもりなんてないわ。だってこんなの、あまりに理不尽で悲しいもの。
一方のドールは非現実的な領域に突如として向上した身体能力にあっさりと順応していたものの、武器の扱い方は
まるで泳がされ、
「…!?」
何度目かの
その瞬間をドールは逃さず、大鎌を脇に構えながら飛び掛かった。
無尽蔵にも思えるこの体力と適応力ならば、この場が
その隙さえ生まれれば、不慣れな武器でも神様の
ドールは
「……っ!!」
だが死神もまた反射的に頭部を後方へ
それでも
その一瞬の抵抗に違和感を覚えたドールは、追い打ちをかけることはせず、ゆっくりと死神の方へ向き直った。
死神が初めから何か武器の
一方の死神は激突に
その右手に握り締めていたのは、古びた杖のようなものであった。
「…それが死神さんの武器? お互い似合わないものを構えているのね。…交換した方がいいんじゃない?」
物語に描写される死神は決まって鎌を携行していたことを思い起こしながらドールは
だがその裏で生じていたのは本能的な拒絶反応であり、熱に浮かされていたような意識が一転して冷静さを取り戻していた。
死神が構える杖には簡素だが装飾が施され、先端にはドールのペンダントと似た黒い鉱石のようなものが着装されていたが、殺傷能力が期待できるような鋭利さには見えなかった。
そんな武器と称することも
——大司教様が権威の証として掲げていた杖に似ている…私を
預言者グレーダンの威光を崇め讃えて新興したグレーダン教の大司教を務める者が、
だが元来それはグレーダンが創世の神より啓示を
悪魔を宿した者を討伐するにはお
——でも、大司祭様の杖はもっと豪勢な装飾が施されて、槍と
——良く
すっかり足が止まったドールを見越して、そのとき初めて死神から距離を詰めてきた。古びた杖を掲げ、意を決したように正面から全速力で突っ込んでいた。
我に返ったドールは、その場で踏み込み大鎌を右手側から
だが死神はその軌道を
最初から狙いはそこしかないとでも言わんばかりの実直で洗練された身の
だが吸い寄せられる視線の先にあったのは、胸元へ真っ直ぐ突き出される黒い鉱石だった。
見立て通り鋭利ではなく、到底心臓を一突きに仕留められるような形状ではない。だがその鉱石を胸元に突き付けられていること自体が、ドールにとっては致命的だった。
深紅の瞳が大きく拡がり、
——まさか!? …こっちが、本物の……!?
**********
ラ・クリマス共和国の北部山岳地帯を主とするディレクト州、その中で最も歴史のある街であるディレクタティオの小高い丘には、グレーダン教の総本山であるディレクタティオ大聖堂が
数々の美しい彫刻や色
普段は
この日の夜も数百人もの正教徒が礼拝堂に集い、大司教が祭壇から説く説教に耳を傾けていた。
男も女も正装である
その背後では2,3メートルほどの高さがある6つの黒い十字架が壁に埋め込まれ、円形の空間を取り囲むように
「…さて、
「ここで改めて、偉大なる預言者グレーダンが厄災の根絶と
①『
神を信じれば必ずや
②『
神は
③『
神は
④『
神は
⑤『
神は他人の尊厳を重んじる者を天の国へお招きになります。
⑥『
神は我々がともに手を取り合い生きることを望んでおられるのです。
⑦『
神に祈りを捧げれば必ずや施しをお与えくださるでしょう。
「グレーダンが神からの啓示を
「しかし、いつまでもそのような
大司教の野太い声音が礼拝堂に響き渡るが、拍手
大司教もその何百という視線が
「…その千年祭に向けた我々の歩みを、誠に
「しかしながらその尊厳を
その
そこには1人の若い修道女が縛り付けられており、
「…
大司教は低い声音で、しかし通りの良い音圧で教徒たちを
「ドール、
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